第4話 宇宙人にライバル現れる

「どうだった?」

 会社に戻ると社長の割戸わりと統留すべるが興味津々の面持ちで待っていた。

「本当に宇宙船がありました」

「え! 乗ったのか?」

 割戸はイスからずり落ちながら訊いた。

「はい」

「乗ったんだ?」

「……はい」

「で?」

「やはり、その宇宙船では母星いえには帰れないようです」

「どうするつもりだ?」

「どうにかして、家族か政府機関が迎えに来ざるを得ない状況を作るしかないと思います」

「そんな事できるのか?」

「少なくとも通信は繋がっているので、それを頼りするしかないんですけど」

「そうか……」

 割戸は乗り出した体をイスの背もたれに戻した。

「金は持ってるのか?」

「まだそこまで確認してません」

「大事なことだぞ」

「提案する時に前金でいくらかもらうようにします」

「そうだな」

「じゃあ、作戦、練ってきます」


 矢芽郎は自席に戻り、パソコンを立ち上げた。

 ログインし、検索エンジンに一か八か『おとめ座のM87銀河 ムリリ』と入力してみた。

 意外にもA国のホームページがヒットした。翻訳ソフトで変換したみた。若干、和訳のおぼつかない部分も散見されたが、読めなくはなかった。

 どういう理由で流出したのかは不明だが、A国の国家機関の情報だった。


 ムリリは母星へ帰る手立てを失ったと同時に生活の基盤も失っていた。

 やむ無く、A国航空宇宙局に売り込みをし

、技術提供をすることで食い扶持を得る事ができた。

 圧倒的な科学力の差に過信をしていたのが災いし、A国に拘束され、危うく実験台にされそうになったこともあった。

 研究員達の隙を突いて脱出し、腹いせに幾つかの施設を宇宙船で破壊した後、行方をくらませたところで記録は終わっていた。


 こんな科学力のある宇宙人の本体を地球に近づけて本当に良いのだろうか?

 だからと言って、今更、ぞんざいな扱いも出来ないし。相手の性格が掴みきれない中では、どんな仕返しを受けるか想像もつかない。

 矢芽郎の中で疑問と不安が揺らめいた。

「矢芽郎、ムリリ様から電話だぞ」

 主任のあら探志さがしから外線が転送されてきた。


「はい、お電話代わりました天神です。先程はありがとうございました」

<こちらこそ、ありがとうございました>

「いかがいたしましたか?」

<あれからちょっと外務機関が欲しい情報を考えて見たんですけど>

「あ、はい」

<実は、我々には敵対する惑星人がいまして>

「はい……」

<その惑星人の弱点がわかったんです>

「はあ……」

<それを教えれば喜ぶはずです>

「なるほど。少し、教えていただきたい事がありますが、よろしいでしょうか?」

<はい>

「敵対する惑星人というのは今、地球に来ているのでしょうか?」

<来ています>

「どこから来たんですか?」

<私の惑星ほしの隣の銀河の平泉星ひらいずみせいから来ています。隣と言ってもかなり離れていますが>

「何をしに来たのですか?」

<我々と同様に移住先を探しているのです>

「え! 移住先ですか?」

<ああ、まだ言っていませんでしたか? 私はリストラされたので任務は終了しましたが>

「なぜ、移住先を探しているのですか?」

<私の星も平泉星も数百年後にはブラックホールに飲み込まれる運命なのです。それで今の内から移住可能な惑星がないか調査を行っているのです>

「なぜ、ムリリ様の惑星と平泉星人は敵対関係にあるのですか?」

<彼等は科学力が我々より劣るのですが、肉体は我々より遥かに頑強なため、我々が手に入れた植民地を力付くで横取りしようと企んでいるのです>

「植民地?」

<移住先の事です>

「平泉星人は今も地球を移住先にしようとしているのですね?」

<そうです>

「ムリリ様はどうして平泉星人の弱点を知ることができたのですか?」

<先日、お腹が空けたので昼食を取りに川に行ったのですが、その時に平泉星人に出くわしたのです>

「あの、何を食べようとしたのですか?」

<アメリカザリガニです>

「アメリカザリガニが好きなんですか?」

<地球こちらに来てから食べるようになりました>

「共存できそうですね」

<そうなんですか?>

「ええ。外来種で増えすぎて困っているんです。あ! すみません……」

<いいえ。私たちは増えていませんから>

「話の腰を折ってすみません。それで、平泉星人の弱点はどうして分かったんですか?」

<はい。私がアメリカザリガニを採っていると、突然、後ろから大男が殴り掛かって来たんです>

「それで」

<すんでのところでパンチを避けて、持っていたアメリカザリガニを相手の顔面に投げ付けました>

「ほう」

<相手が一瞬、ひるんだので、その隙を突いて逃げました>

「なるほど」

<20メートルほど離れたところでまた奴が追いかけて来たんですが、大きめの石かなにかに小指をぶつけたらしく、絶叫を上げて奴が倒れ込んだんです>

「ふむふむ」

<私は大きめの岩の陰から様子を伺いました>

「逃げなかったのですね?」

<はい。何が起きたのか興味がありました>

「それで」

<奴はシューズを脱いで足を確認しました>

「そうしたら?」

<どうやら小指の爪が剥がれたようで、改めて絶叫を上げて気絶しました>

「何と!」

<しかし、5分程で息を吹き返したので、事前に近くに呼び寄せていた宇宙船に乗り込んで私はその場を立ち去りました>

「弱点はアメリカザリガニじゃなかったんですね?」

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