第2話 宇宙人、付いてくる

「おはよーございまーす!」

 廃業したコンビニを改装して社屋にしている株式会社大切屋たいせつやは、社長を筆頭に副社長1名、社員4名の零細企業だった。

 入口を入ると正面から右手にL字の受付カウンターが設置されていた。プライバシーが守られる様に等間隔でパーティションで仕切られている。

「おはよー」

 開店前にカウンターの拭き掃除をしていた経理担当の笠根木かさねぎ温子あつこが怪訝な表情で応じた。

「誰?」

「ああ……」

「知り合い?」

「お客さんです」

 矢芽郎やめろうの背後には、つぶらな瞳の宇宙人が立っていた。

「おはようございます」

 ペコリと宇宙人は笠根木に頭を下げた。

「いらっしゃいませ……」

 笠根木も背中に雑巾を隠して、お辞儀した。

「すみません、営業時間前に」

「いいえ、どういたしまして。どうぞ、こちらへお掛けください」

 宇宙人は笠根木に案内された一番奥のカウンターに腰掛けた。

 矢芽郎もカウンターを回り込んでそそくさと宇宙人の前に座った。

「じゃあ、改めてお話を伺いますね」

「はい」

「私は本日、ご担当いたします天神です」

「私はムリリです」

「ムリリ様ですね、ありがとうございます」

 矢芽郎は注文書に記入した。

「私どもに依頼されたいご要件をお教えください」

うちに帰りたいのです」

「ご自宅に?」

「そうです」

「どちらですか?」

「ここから5500万光年離れた、おとめ座のM87銀河にある惑星です」

「んーっ……。お力になれません」

 矢芽郎は深々とこうべを下げた。そして、出口まで見送るために立ち上がった。

「そんな事はないです!」

 ムリリは矢芽郎の手を握った。小柄な姿から想像出来ないほどの力強さがあった。

「いいや、しかし。お宅に送り届ける科学力がありません」

 矢芽郎はやんわりとムリリの手を離した。

「宇宙船はあるのです」

「え! じゃあ、何故?」

「船が小さいので、地球の外には出られるのですが、そこからは母船に乗せてもらわないと遠くまでは行けないのです」

「やはり、科学力がありませんのでお力になれません」

「実は母国の調査機関に勤めていたのですが、こちらへ来てからリストラされたのです」

「はい……」

「何度か職場に連絡をしたのですが、通信が遮断されているのです」

「はい……」

「ただ、家族との通信だけはかろうじて繋がるのです」

「はあ……」

「しかし、応答してくれないのです……」

「着信拒否をされていると言うことですか?」

「……はい」

「原因はわかっているんですか?」

「妻に浪費癖と浮気を疑われているんです」

「事実ではないのですか?」

「事実です」

「ダメじゃないですか?」

 思わず、矢芽郎は突っ込んだ。

「すみません」

「いいえ、こちらこそ失礼しました」

「妻と連絡が取れるようになれば、そこから助けを求める事ができるんじゃないかと思うんです」

「そのお手伝いを私どもに依頼したい、と言うことですね?」

「はい!」

 ムリリは満面の笑みをたたえた。

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