第51話 ツバサ
タイガ達は興味のあまり、ワイワイと騒いでいた。
「静かにしろ!」
夢魔(ムーマ)はタイガ達の方に瞬間移動して睨みつけた。
「えっ、なに、今の?」
「瞬間移動した」
「あのちょっと聞いて良い?」
「なんだ?」
「今の瞬間移動、どうやったの?」
「逆に聞こう。遠近というものが本当に存在すると思うか?」
ツバサは何が何だか訳が分からなかった。
「それ、どういうこと?」
「遠近というものは空間によって作り出されただけで本当は存在しないんだ」
「本当はどんな遠い場所でも自由自在に行けるってこと?」
「そっ」
「でも、どうやるの?」
「空間を歪曲し、空間と空間をつなげばいいんだ」
「何かものすごく簡単そうに聞こえるけど」
「あぁ、簡単さ」
「空間を利用する事でいろいろできるんだ」
ツバサが急に宙に浮いた。
「えっ、な、なに!?」
「重力の向きを逆にしたんだ」
「すごい」
「なあに、空間歪曲を応用しただけだ」
「なんか、どっちが上か下か分からない」
「フッ、上と下なんて本当にあると思っているのか?」
「地球では上と下を感じる事はできるけど、確かに宇宙では無重力だから上とか下とかそういうものはない」
「その通りだ。上下という概念は存在しない。上下というものは重力によって作られているだけ」
「そういわれればそうだね」
「正確に言えば重力で上下を感じてるだけだ。上下というものはない」
「ありとあらゆるものが存在すると感じているだけで本当はそこにはなにもないみたいな言い方だね」
「よく気が付いたな!現実世界も実は仮想世界だ!俺はそう信じる」
ツバサはきょとんとした顔をした。
「なんかものすごく突拍子もない感じ」
ツバサは苦笑いした。
「さすがにそれはありえないかと」
「いや、現実世界も何者かによって創られた世界だ」
「では、聞こう。君が今まで見てきたものは本物か?」
「本物だと思う。今まで見てきたもの、触れたもの、感じたものの全てをしっかりと覚えてる」
「では、お前の記憶は本物か?その記憶も何者かによって創られたものかもしれないぞ」
ツバサは少し変な気分になった。
「確かにうちの記憶が本当に自分自身の記憶かどうかは分からないし、それを証明する方法もない。だけど、今まで経験した事、学んだ事、感動した事、培ってきた事は全て自分自身に組み込まれてる。だから、この生きてきた人生は本物。創られたものじゃない」
「ふ~ん、面白い事言うな」
夢魔(ムーマ)はすました顔でツバサを見た。
「では、君が現実世界で感じてる重力は何者かによって創られたもので本当は存在しないんじゃないか?」
「いや、重力は星の遠心力で生み出されるものだと思うけど」
「へぇ~、良く知ってるね。じゃあ、その遠心力が誰かによって創られたものだとしたら?」
夢魔(ムーマ)は少し嫌らしい顔をした。
ツバサは困惑した。
「ごめん、ごめん。しつこかったな」
「なんていうか、けっこう面白い考え方」
「ありがとう。君は現実世界は仮想世界じゃないと考えてるってことでいいかな?」
ツバサはうなづいた。
「現実世界は全てのものに規則性がある。光は1秒間で約30万キロ進み、1モルは6.0×10の23乗個の粒子が集まったもの、そうこの世の全てはありとあらゆるものが計算されてできている。この世の全ては数字で表せる。どうだ何か感じないか?」
「現実世界は何者かの計算によってできてるってこと?」
「ご名答!」
夢魔(ムーマ)は得意げに言った。
「でも、現実世界は仮想世界じゃないと思う。アニメ、漫画、ドラマ、映画は原作者、監督、脚本家といった一部の人達の思考を中心にして進み、その人達が実質、主人公みたいなもの。だけど、現実の世界では主人公はいない。現実の世界は誰かを中心にして動くのではなく、みんな1人1人でシナリオを書いていく事で成り立ってるものだと思う」
「素晴らしい!ますます君に興味が湧いてきた」
「なんか恥ずかしいな」
「何を言う。自信を持て!君は私が今まで会ってきた人の中で一番面白い」
「ありがとう。なんか照れるな」
「さあ、君の力を見せてくれ。そして、私をもっと興奮させろ!」
すると、ツバサの周りをレーザーが囲んだ。
「ちゃんとよけられるかな?」
ツバサはスイスイとよけた。
「な、なんだ?あらかじめにレーザーがどう動くか把握してるようだ。もしかして、この世界を創ってるコンピューターのプログラムを把握してるのか?」
「これけっこういい運動になるね」
ツバサはノリノリだった。
「すげぇ!」
タイガ達は今まで感じたことのない興奮を覚えた。
なぜなら、人間は未来と遭遇していないからだ。
今というものは過去の人達にとっての未来である。
そして、未来の人達にとっての今は過去であり、過去の人達にとっての未来は未来の人達からしてみれば未来ではなく今である。
人間は未来と遭遇していない。
ところが、今、この瞬間、彼らの目の前に未来が現れた。
ツバサはメモ帳を出し、何かを書いた。
それは電子回路図だった。
「これは私の意志で動いているコンピューターの回路図。ほ、ほんとに把握してたのか。し、しかも完璧だ」
「驚いた?」
さらにツバサを取り囲むレーザーや周りのありとあらゆるものがツバサの意思で動いてるようだった。
「ま、まさか、コンピューターそのものを掌握してるのか?そっ、そんな馬鹿な」
この世界は全てツバサの思いのままだ。
夢魔(ムーマ)は驚いた。
他にもツバサは幻を見せたり、光子を自由自在に操ったり、ブラックホールを空間歪曲で相殺し、消滅させるといった力も見せた。
「信じられない」
「報告があります。時空間に何かしらの力が作用しています。さらに、時空間が新たに増えていきます」
「時空間が増える?もしかして、こいつがやったのか?こいつは時そのものを創れるのか」
夢魔(ムーマ)はとてつもなく驚いた。
そして、夢魔(ムーマ)は未来を超えた存在であるsuper futureはツバサであり、自分自身はsuper futureを生み出すうえでの触媒に過ぎないと悟った。
ここに新たな生命が誕生した。
生命体ツバサが誕生した。
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