第17話 インセクトワールド(後編)

「こうしてみると、普段は分からない昆虫のことがよく分かるなぁ」


タイガ達は昆虫の生活を実感して、楽しんでいた。


アリは列をなしてテキパキと働いていた。


その姿には集団美さえ感じられた。


「しっかり列をなして動いてる」


「なんていうか、秩序通りに動いてるね」


「僕ら人間とほとんど変わらないね」


「あいつらはフェロモンって言う特殊な匂いで動いていて、フェロモンで巣はどこにあるのかって言うのを知ることができるんだ。どんなに遠くに居てもフェロモンの匂いを辿れば必ず巣に戻れる。だからあいつらはバラバラに動いたり、はぐれたりはしないんだ」


「おぉ、よく知ってるね」


「無知なタイガさんがフェロモンについて知ってるなんて驚きですね〜」


ワンダーバードはニヤニヤして嫌味を言った。


タイガはうるせぇ!と言う文字を想像してワンダーバードに投げつけた。


「まったく、乱暴ですね」


ワンダーバードは困った顔で痛がっていた。


「へっ、ざまぁみろ!」


タイガはとても勝気な感じだった。


すると、アリの巣に一体のクモがやってきた。


アリはそのクモをあっさりと受け入れた。


「えっ、なんで!?」


みんなは驚いた。


「アリとクモってけっこう仲良いのかな?」


タイガは不思議そうに思った。


ワンダーバードはタイガをあきれたように見ていた。


「あっ、もしかして!あのクモもアリと同じフェロモンを出してるんじゃない」


「あっ、そういえば、アリはフェロモンで仲間かどうか見分けるんだった」


「よく気付きましたね。どこかの単細胞とは大違いです」


ワンダーバードは感心していた。


タイガは面白くなさそうな顔をしていた。


「あのクモ、アリを食べやがった」


クモはアリが見ていない隙に次から次へとアリを捕食していった。


「許せねぇ!」


タイガは激怒し、そのクモに向かって銃を撃った。


クモは倒れた。


「ざまぁみやがれ!」


「かわいそうだよ!」


「はあ、何言ってんだよ」


「でも、わざとじゃなくて、生きるためにやったんだ」


ツバサは優しく、諭した。


タイガは複雑な表情をした。


タイガは静かにうなづいた。


「そうだな。俺が悪かった」


タイガ達はいろいろと四苦八苦しながら、クモを手当てした。


クモは静かに去っていった。


食べる事は生命を保つうえで絶対に必要な事、そして、食べる事はグレードアップさせるために必要な事、さらに、食べる事は新たな体を得るために必要な事である。



生命は食べる事によって、変わり続ける事ができる。



生命は食べる事によって、どんな時も適応できる。



 タイガ達はアリと同じフェロモンをだすことでまんまとアリを騙し、アリを次から次へと食べていくと言う自然界の残酷な部分を見てしまった。



自然界の残酷な部分が何なのかということをタイガ達は思い知った。



自然界の残酷さがタイガ達を静かに包み込んだ。



残酷さも自然界を構成する上で重要な存在なのだとタイガ達は悟った。



「何か残酷だね」


「生きていくことって残酷なことかも」


「生き物は食う食われるで生きているからね」


どの生物も食物連鎖と言う名の弱肉強食の下で生きていかなければならない。


地球上の生物にとって生きていく上でそれは逃れられない宿命である。


「にしてもアリもアリでバカじゃん」


「普通、アリじゃなくてクモだって分かると思うけど」


タイガはヒロとタカヒロをにらんだ。


「ご、ごめん」


二人は黙り込んだ。


「アリはフェロモンでしか情報を得ることができないのか」


「フェロモン以外で情報を得ているアリもいますよ」


「ほんとか?」


「ええ。砂漠のアリはフェロモンではなく空の変化で方角を把握するナビゲーションシステムを使って巣の位置を把握してるんだ」


「おお!頭いいな!」


「さらに、空だけではなく周りの景色も把握して自分がいる場所を把握してるんだ」


「すげー!」


「すごい観察力じゃん」


「人間より頭いいかも」


「地球で最も頭の良い生き物は人間だって思ってたけどそう思い込んでただけで本当は昆虫の方が人間より頭が良いのかも」


「フンコロガシは光の変化で方角を把握するしね」


「フンコロガシってものすごく汚いイメージあったけど、知的な所もあるんだ」


「そうそう、太陽、月、天の川と言ったものの光を使って方角を知ることができるみたいだよ」


「すげーじゃん!」


「天体の光で方角を知ることができるのか」


「フンコロガシもすごいナビゲーションシステムを持ってるね」


「よく知ってますね。じゃあ、問題です。フンコロガシはフンを転がす前にフンの上に登って、ぐるぐるとダンスするのはなんでだと思う?」


「求愛行動とか」


「ブブー違います。正解はダンスをして夜空の星がどうなっているかと言う事を記憶してその記憶を頼りに自分がどの場所にいるのかと言うのを把握するんです」


「記憶力も俺らより上なのか」


タイガ達は知的さをフルに活用して自然界を生き抜くフンコロガシの話を聞いてとても驚いた。


「星の位置とかを記憶してるの?」


「そうです」


「星の位置を一瞬で全部、記憶するなんてかなりムズイよなぁ」


「やっぱ虫はすごいわ」


「あっ、ミツバチだ!」


タイガ達はミツバチを見つけた。


「そういえばミツバチもアリと同じようにフェロモンを使っているね」


「ミツバチはフェロモンを使って巣の中の秩序を保ってるんだ」


「ミツバチはフェロモンだけじゃなくてダンスをやって仲間に情報を伝えることもできるんだ」


「ダンスで巣にいる仲間に蜜のありかはどこにあるのかと言うのを伝えたり、方角を教えることができるんだ」


「ミツバチの巣にスズメバチがきた」


「スズメバチのような天敵がきたときもフェロモンで仲間に伝えて力を合わせて巣を守ってるんだ」


タイガ達はミツバチとスズメバチの戦いを見ていた。


スズメバチにミツバチがたくさん集まってきた。


「何かすげーな!」


「おしくらまんじゅうみたい」


「どっちも生きるのに必死だなぁ」


「あっ、スズメバチの動きが鈍くなってる」


「もしかして、弱ってきてない?」


「いいぞ!やれやれ!」


「あっ、スズメバチが動かなくなった」


「ミツバチが勝ったんだ」


「どうやって勝ったのかな?」


「みんなでスズメバチに毒を注入したとかじゃないの?」


「それだ!毒攻撃をやったんだ」


「ブブー!違います」


「えっ、なんで?毒じゃないの?」


「実は熱でスズメバチを攻撃してたんです」


「あーなるほど。だからおしくらまんじゅうみたいになってたんだ」


「きっとものすごい熱だったんだろうなぁ」


「あっ、ミツバチにも弱ってるのがいる」


「ミツバチは自分自身の生命力を削ることで巣を守ってるんだ」


「昆虫ってすごいね」


「ねっ、偉大だね」


「こうして昆虫と同じ世界でまじかでみると普段は見えない昆虫のすごい部分がよくわかるな」



タイガ達は昆虫世界を学び、楽しんだ。



タイガ達は生きる事は魂であり、生き抜くには命がけで生きないとダメだと学んだ。



 しかし、タイガ達はピンチにも出くわした。


タカヒロはきれいな花を見つけて、その花に近づこうとした。


そのきれいな花はピクリと動いた。


何とも言えない不気味さを放った。


タイガはそれを見逃さなかった。


タイガはタカヒロを止めた。


「あっ、危ない!」


すると、その花は突然、動き出し、タカヒロを食べようとした。


その花の正体は花ではなくハナカマキリだった。


「ハナカマキリだ」


「きれいな花になりすますなんてキタねぇ野郎だな」


タケシは食虫植物に食べられそうになったが、タイガが機転を利かせてタケシを助けた。


タイガ達は昆虫世界の残酷な所を身をもって実感した。


タイガ達は生きるとか何なのかと言う事を実感した。


一方、ツバサはヌメヌメした謎の粘液の正体を探ってた。


あたりを見渡すとその正体が分かった。


ナメクジだった。


ナメクジはツバサに向かってきて、ツバサの体全体に触れてきた。


ツバサは魂が抜けたようにしばらく放心状態になっていた。


こうして、タイガ達はインセクトワールドを後にした。



 人間は昆虫の事を知らない。



それは昆虫の世界で昆虫と同じ目線で暮らしていないからだ。



昆虫もおそらく人間の事を知らないであろう。



それは人間の世界で人間と同じ目線で暮らしてないからだ。



人間は地球上でもっとも賢い生き物だと思っているが、それは単なる思い込みなのかもしれない。



本当は人間が地球上でもっとも賢いと思い込んでいるだけで他の生き物が賢いのかもしれない。



人間は昆虫がどれくらい賢いのかと言う事を知らない。



それは人間が昆虫の世界で昆虫と同じ目線で暮らしてないからだ。



昆虫も人間がどれくらい賢いかと言う事を知らないだろう。



それは昆虫が人間の世界で人間と同じ目線で暮らしてないからだ。



人間は文明と言うバリアーに守られて、道具と言うものを使って地球上を制覇しているがそれらのものがなければ他の生き物と同じ世界で暮らし、他の生き物と同じ目線で考え、他の生き物の本当の姿を知り、人間は本当に地球上でもっとも賢いのか、人間の賢さは他の生き物とあまり変わらないのではないかと言う事を感じるのかもしれない。



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