第13話 安らぎの村(後編)

「実際は9月7日に戦争が終わったって言うのはどういうことだよ?」


タイガは驚いたようにヒロの所に詰め寄った。


「実は沖縄では8月15日が過ぎた後も日本軍の残党が抵抗を続けていて、9月7日に降伏したらしいんだ」


「へぇ〜」


タカヒロは感心するように相づちをうった。


「それをいうなら終戦したのは9月8日じゃないの?」


「それってどういうこと?」


「日本は1951年の9月8日にサンフランシスコ平和条約に署名して戦った国と実質的に仲直りしたの」


「なるほど」


「いや、だったら終戦したのはもっと後、じゃねえの?」


タイガが反論した。


「もっと後って言ったら?」


みんなは不思議そうにタイガをみた。


「小野田少尉は日本が降伏した後もずっとルバング島にいただろ?小野田少尉は太平洋戦争が終わって日本が負けたっていうのを知らないでずっとルバング島にいたってことはずっと一人でアメリカと戦ってたってことだろ」


「確かに」


「小野田少尉の心の中では戦争が続いてたってことか」


「うちらは戦争のことあまり知らないね」


「もっと戦争を知らないといけないよな」


 タイガ達は村人に戦争でどのような体験をしたのかと言うのを聞くことにした。



村人からは壕の一番前にいた子が機銃掃射で撃たれてしまい、亡くなったと言う話や目の前で友人が亡くなった、戦争をしていた頃は戦争に行く人に対してうらやましいと思い、戦争に行けない人や戦争に協力しない人に対しては情けない、恥ずかしいと感じていた、戦争で苦しいこと、悲しいこと、辛いことと言った経験を積み重ねていく内に心が耐えられなくなってしまい、気が狂ってしまった、心がおかしくなり、人を殺すことに快感を覚えるようになった、戦いたくないのに戦うことを強制された、敵を殺すこと以外の感情を持つことを否定された、逃亡したり、少しでも命令に背いたり、少しでも気に入らなかったら上官から徹底的にいじめられた、任務遂行のために兵士だけでなく一般市民も殺すよう命令され、何の罪もない人達を当たり前のように殺すようになった、兵士だけではなく一般市民も次々と容赦なく殺されていく光景をみたと言った数多くの悲惨な戦争体験を聞いた。



ヒロは何の罪もない人達も容赦なく殺されていくと言うことにとてつもなく驚いた。



そして、戦争は良い人、悪い人関係なく死に追いやってしまうんだと悟った。



「映画では最後の最後で主人公が生き残って、悪い奴が死ぬって言う展開が多いけれど実際の戦争は良い奴悪い奴、関係なく容赦なく殺していくんだなぁ」



ツバサは戦争によって常識では考えられないことを当たり前だと感じていくようになり、心が壊れてしまい、知らず知らずの内におかしくなってしまうことに酷くショックを受けた。



「戦争は人の心を殺していくのか」



戦いたくない人を無理やり戦わせたり、相手を殺すこと以外の感情を持たないことを強制されると言うことにタイガは酷く怒った。



「戦いたくない人も無理やり戦わせるなんてひどいぜ!敵を殺すことだけ考えろとかマジで狂ってるだろ!」



タイガ達は戦争はなぜ起こるのかと言うことを改めて考えてみた。



「国と国同士がお互いに憎み合って、いじめ合って戦争が起こるんじゃないのかな?」



「それだ!」



人類の歴史には国と国同士がお互いにいじめ合うことで発展してきた事実がある。


我が国日本も例外ではない。


日本にも兄弟であった国を裏切って痛めつけたことで発展していった醜い歴史がある。


「でも、なんでお互いに憎まないといけないのかな?」


ツバサは不思議そうに思った。


「利害関係とか?」


「それだったら話し合いで解決できそうな気もするけど」


「何ていうかお互いの心の中で憎むって言う気持ちが生まれてくることが戦争の火種になるんじゃない?」


「そうだね」


「戦争って言うのはお互いの心の中で相手を憎み合うことだと思う」


「ってことはまだ太平洋戦争は終わってないかも」


「えっ、どういうこと?」


タカヒロは不思議そうに聞いた。


「日本の人々と他の国の人々の心の中にあるわだかまりが解消してないじゃん」


「確かにいつ戦争が再び起こってもおかしくない感じだよな」


「休戦してるようなものなのかも」



お互いの国の人々がお互いに尊重し、認め合うことで初めて戦争が終わるとタイガ達は悟った。



「また仲良くなれたりするかな?」



「きっとなれるよ!だって、日本はアメリカやイギリスのことを鬼畜米英と罵っていたし、アメリカも日本のことを原始的で野蛮な奴らだと馬鹿にしてたけど今はお互いに仲良くしてるし」



ツバサは自信満々に言った。



「まぁ、日本はアメリカの手下みたいな感じだけれど」


「もう仲良くなれないって悪い方向に思うんじゃなくて、仲良くなれるって良い方向に信じたらきっと仲良くなれるよ」


「そうだな」


「やっぱり、仲良くした方が絶対に良いよね」


「でも、たとえ仲良くなって仲直りしたとしても戦争をして、相手の国を傷つけたって言う事実は消えないよな」


「永遠に反省し続けないといけないってことか」


「だからこそ戦争は絶対にしたらダメだね」


戦争はお互いの国の心の中に深い傷を与え続ける。



たとえ戦争が終わって幾千の時が経ったとしても。



だから戦争と言うのは償っても償いきれない罪であり、どんなことがあっても絶対に犯してはならない。



「そういえば、思ったけど。俺達は昭和を繰り返してるような感じがするんだ」


「えっ、どういうこと?」


みんなは不思議そうにタイガをみた。


「こないだのニュースみた?ネオアメリカのやつ」


「あっ、もしかしてネオアメリカがアメリカ合衆国に対して戦争を仕掛けたやつ?」


「そうそう」


「ネオアメリカっていったら貧困層の人達を集めてるやつらか」


「国民の正義感を煽って、正しいと思い込ませているんだ」


「何かやってることが昔の日本やナチスドイツに似てるよね」


「人種差別や壁を作るために黒人とかをこきつかってるんだろ」


「あっ、そうそう!ニュースでBUILD THE WALLと黒人に怒鳴っていた人をみたよ」


「日本でも似たようなことが起こってるよな」


「経済格差がさらに広がって反政府集団と政府との対立が激化したり、右翼が社会に希望を失っている人達を煽って自治区とか作ってるよな」


「政府はこの状況に上手く対応できずに手をこまねいて見ているだけだよな」


「ネオアメリカの件でもどうすれば良いか結論を出さないで右往左往しているうちに日本は国際的に孤立してしまったよな」


「そういえば昔の日本も上手く決断出来ずにズルズルと戦争の道を歩んでいったみたいだけど」


「相変わらずだな」



 政治家や国民の間で日本は決断しなければならず、日本はアメリカと同盟を組んでいる国としてアメリカと中国の仲を取り持つ道義的責任がある、アメリカと中国は対立するのではなく、お互いに認め合い、協力し合っていってほしい、もちろん、日本は中国と敵対するのではなく、お互いに対等に関われるようになった方が良いと思う、と言った意見や日本は欧米や周辺諸国と連携して中国に対抗すべき、日本は再軍備を進め、中国に対し、強硬姿勢で臨むべきと言った意見の二つに分かれ、激しい議論を交わしていた。



いずれにせよ戦争で解決する手段を選べば両者、多額の費用を使うだけではなくより多くの血を流す事になる、しかし、話し合うと言う手段を選べば、両者、多額の費用を使う事なく、一滴の血を流さずに両者の幸福を実現できる。



タイガ達は祭りを楽しんだ後、この村を後にした。



 一方、夢魔(ムーマ)の研究所ではタイガ達の様子が映っている巨大なモニターとパネルが無機質に並んでいるコンピューターでムーマの構成員達が作業をしていた。


そのコンピューターの中には数多くの人間の臓器が機械と一体化していた。


と言うより人間の体が機械の一部になっていると言う感じである。


その光景はあまりにもおぞましいものである。






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