冒険

第6話 恐怖

 タイガ達はバーチャル・アークを探す旅に出発しようとしていた。


「皆様、ちょっと待ってください」


ワンダーバードがみんなを止めた。


「何だよ?」


タイガは冷たそうな目でワンダーバードを見つめた。


「旅に出る前に恐怖に耐える訓練をしましょう。皆様は行く先々で数多くの恐怖に出くわすでしょうから」


ワンダーバードは軽快な口調で得意げに言った。


「何をすれば良いの?」


タケシが不思議そうに聞いた。


「今からそれぞれの心の中にある恐怖が目の前に映し出され、それが襲いかかってくる。必死に耐えるんだ。どれほど苦しくても!」


ワンダーバードは真剣な口調で言った。


すると、タイガの目の前には散らかってる机でタケシの解答を写して課題をやっているタイガの姿が映し出された。


「うわっ!普段の俺じゃん」


タイガは普段のみっともない自分自身の姿を見て、少し嫌な気分になった。


タイガが普段の自分自身の姿にあきれているとそこに母親が入ってきた。


「ゲッ!」


タイガは怖いもの知らずだが、唯一、怖いものがあった。


それは彼の母親だ。


母親は彼にとって恐怖の対象であり、天敵のようなものでもあった。


タイガの母親は彼の部屋に入ると、真っ先に散らかってる机を見て、注意しだした。


そんな母親をタイガはうっとうしそうに見ていた。


そして、母親はタイガを激しく叱りだした。


課題だって、どうせタケシがやったのを写してるだけと指摘されるとタイガは一応、自分で考えてやったと自信なさそうに反論したが、母親はタイガがやっている課題を見て、タイガにしてはスラスラとできていることに気づき、嘘つけ!どうせやってるフリ!タケシがやったのを写してるだけと言われてしまう。


タイガは本当に自分でやった、写してないと反論するもどうせ本の間にタケシが作ったカンニングペーパーみたいなものがはさまっていると母親に言い当てられてしまう。


タイガはいや、違うと言ったが、彼の顔は明らかに動揺していた。


図星だった。


そんなタイガに大人になってもタケシにずっと寄生虫みたいにくっつくの?タケシに頼らないと何もできない!タケシが大人しいのを良いことに都合の良いように利用していると言った嫌味が次々と飛び交ってきた。


タイガは正論の数々に対して何も言い返せなかった。


すると、タイガの父親が入ってきた。


彼はやるべきことを怠ってるのは悪いことだけど、タイガだって本当は母ちゃんのこと想ってるはずだから、タイガの気持ちを分かってやれよ!と母親をなだめるが、彼女は激しく激怒し、父親もタイガと一緒に叱られるはめになった。


父親はすまん!俺が甘やかしてしまった!ほら、タイガも謝るんだ!と必死に謝っていた。


タイガはそんな様子をじっと見ていた。


そして、タイガはあまりの情けなさに映像に向かって、タケシは良いやつなんだよ!タケシを馬鹿にすんな!親父をしいたげるんじゃねぇ!と力一杯叫んだ。


タイガは学業を怠ったり、ことあるごとに問題ばかり起こしていることを少し、申し訳なく思っているが、タケシとの友情、親父との絆は誰にも負けないと言う自信があった。


なので、タイガは母親にそれらを否定されたような気分になり、我慢できなくなり、激怒してしまった。


すると、映像に映っている母親は飛び出してきて、タイガに激しく怒鳴った。


タイガはあまりの恐怖で顔がこわばり、体も固まっていた。


それでもタイガは俺がクズなのは俺のせいだ!親父は関係ねぇ!と力強く叫んだ。


タイガの父親は台所で火遊びをして遊んだりと言った悪いことをした時は激しく叱るが、割と寛大でサッパリしている。


タイガが兄と兄弟喧嘩をした時は鶴の一声で止めさせたり、常に家族のみんなに寄り添う父親をタイガはとても誇りに思っている。


でも、おやつのことで兄弟喧嘩をしていたら、めんどくさいのでとりあえずタイガと彼の兄にげんこつをして、お菓子を取り上げて、取り上げたお菓子を全部自分で食べたことで兄弟喧嘩が親子喧嘩に発展して、結局、タイガ、父親、兄は母親に厳しく叱られてしまった、母親に対しては頭が上がらない所がある、学生時代の頃はタイガのような乱暴者だった、タイガと同様、あまり勉強はできず、特に数学が苦手だった、勉強に関してどのように指導して良いか分からず、あまりきつく言えず、あいまいなことしか言えない、日頃からどんなことがあっても人に迷惑をかけるな、親や周りの友達や先生を大切にしろと言っているが学生時代の頃はことあるごとに騒ぎを起こし、周りに迷惑ばかりかけていたと言ったかっこ悪い所もあるが、タイガは父親のことをとても尊敬している。


すると、母親に叱られているタイガの映像は消えてしまった。


タイガは母親はなんやかんやで想ってくれてる所があると言うのを分かってるので複雑な気分だった。


別のものがタイガの目の前にでてきた。


それは関係詞の問題だった。


「チッ」


タイガは軽く舌打ちした。


タイガは問題を見るが、何が何だか分からず、イライラしてきた。


そして、タイガは問題に対して激怒し、激しく罵倒した。


「何が関係詞だ!?俺様はthat博士だ!whatやwhenなんていらねぇんだよ!thatで十分なんだよ!thatこそ万能!thatこそ全て!そして、thatこそ神だ!分かったか、馬鹿たれがぁ!」


すると、タイガの目の前から関係詞の問題が消えてしまった。


「コンピューターもさじを投げたか」


ワンダーバードはとてつもなくあきれてしまった。


「よっしゃ!」


タイガは力強く拳を握りしめた。


ワンダーバードは罰としてタイガの頭上から金だらいを落とした。


「イッテェなぁ」


タイガはワンダーバードをにらんだ。


ワンダーバードは冷たそうにタイガをじっと見ていた。


「へっ!何だよ?」


タイガはふざけた口調で言った。


ヒロの目の前には昔、酷いことを言って、迷惑をかけてしまった人が現れ、何人かでヒロを取り囲み、ヒロが言ってしまったことをそのままヒロに言っていた。


その人の目は段々と大きくなり、手足は徐々に異形の姿に変わっていった。


その人はニタニタとヒロを見つめていた。


ヒロはただただ怯えるしかなかった。


ごめんなさい!相手の気持ちを全然考えないで酷いことばかり言ってしまった、本当に申し訳ない!とひたすら謝罪した。


すると、ヒロの目の前からその映像は消えた。


タカヒロの目の前には英語の構文の問題がでてきた。


どうやって文章をまとめたら良いか分からず右往左往していた。


それでもどうにか解いた。


だけど、答えは違っていた。


次にタカヒロの目の前にでてきたのは彼を除け者扱いするクラスメイトの姿、部屋に引きこもって人に対して怯える自分自身の姿だった。


彼は確かにあの頃はいつも怯えてばかりで何に対しても向き合えてなかったけれど、今はヒロ、ツバサ、タイガ、タケシがいる、みんながいる!だから大丈夫と自分に言い聞かせた。


すると、タカヒロの目の前から自分自身の黒歴史が映っている映像が消えた。


ツバサの目の前にはいろいろな科目の問題がでてきた。


ツバサは志望校に受かるほどの学力がまだ足りないため学業に対してかなり悩んでいた。


それでもどうにか解いたが半分くらい間違っていた。


次にツバサの前にでてきたのは彼女の母親と幼い頃の自分だった。


ツバサの母親は目玉のような模様がついている芋虫とネッチョリしたナメクジを持って、ツバサを笑顔で追いかけ回していた。


ツバサはその時のことを今でもトラウマに感じている。


すると、ツバサの目の前に目玉のような模様がついている芋虫とネッチョリしたナメクジが飛び出してきて、その二体は徐々に巨大化した。


「ねぇ〜キスしてよ〜、キスがダメならハグしてよ〜」


二体はツバサに対してせがんだ。


ツバサの顔は恐怖のあまりひきつっていた。


「え〜、ハグもダメなの〜?」


二体はがっかりした。


「よ〜し。だったら無理やりキスしちゃえ!」


二体の口は徐々に伸びていった。


「ああああああ」


ツバサは叫びながら、両手をあげて逃げた。


「え〜、何で逃げるの?」


二体は悲しそうにツバサに聞いた。


「な、なんていうか、生理的に無理って言うか、生物的に無理って言うか」


ツバサは怯えながら答えた。


ツバサの口はガクガクとしていた。


「そういう君だって、納豆食ってるじゃん。君の口だってネバネバしてるし、臭いし、僕らからしてみたら君だって生理的に無理かな」


嫌味を言われたツバサはお前にだけは言われたくないと思った。


「君はみんなに対してとても優しいのになんで僕らのことを毛嫌いするの?僕ら何も悪いことやってないのにひどいよ」


ツバサは我に返り、何も悪いことをしていない生き物に対して嫌悪感を示す自分自身の心こそが醜いと悟り、二体に謝った。


さすがに二体にキスしたり、ハグするのはきつかったので、二体に投げキスをした。


すると、二体はツバサの目の前から消えた。


タケシの目の前にはいじめっ子達が現れた。


タケシは一瞬、ドキッとするも、はねのけた。


タケシには幼馴染のツバサとの思い出やタイガとの友情があるからだ。


タケシの目の前からいじめっ子達は消えた。


「これで、一応、全員クリアですね!」


ワンダーバードは嬉しそうに言った。


「もし、バーチャルアークを見つけきれなかったら、お前らの秘密をぜ〜んぶばらしちゃうぞ〜、この世界を創っているコンピューターは大勢の人間の記憶が入っている。もちろん、お前らの記憶もちゃ〜んと入ってるぞ〜、僕はコンピューターに入っているありとあらゆる情報を記憶してるんだ」


ワンダーバードはふざけた口調で言った。


タケシ、タカヒロ、ヒロ、ツバサの四人は激しく動揺していた。


「何が、お前らの秘密をぜ〜んぶばらしちゃうぞ〜だ!気持ちワリィな!この変態野郎!お前、絶対のぞき魔だろ!」


タイガはののしるように言った。


「まあ、確かに時々、たしなむ程度に皆様のプライバシーをチラッと見たりしますけどね」


ワンダーバードは冗談ぽく言った。


「へっ!見た目が変な上にのぞき魔で変態とか最悪だな!まあ、俺は秘密をバラされたって、平気だけどな!」


タイガはさらにののしるような感じで言った。


「あなたにだけは言われたくないね!」


ワンダーバードは冷たそうに言った。


「よし!宝探しは俺に任せろ!ついてこい!」


タイガ達は張り切って宝探しの旅に出た。



 恐怖の対象には幽霊、異形の姿をした怪物と言ったようにいろいろあるだろう。



だけど、怖いと思ったものが本当に怖いとは限らない。



怖いのは怖いと決めつける自分自身の心なのかもしれない。




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