銅像妖怪・二宮金次郎くんと! 夕美映町『午前6時前の百鬼暁行』

冬咲花堂

第1章・不思議な不思議な出会い

2話目「夕美映新聞販売店の店長に怒られたあぁ!?」



「本当なんですって、店長~」


「それでもほぼ毎回、最後まで配り終えるのが遅れるなんてことは、本当にありえないことだぞ!? そこん所はもう十分に、わかってるんだろうな!! 白太!」


「いや、でも今日のは特別で」


 この町の中心部にあたる、砂利道に沿って建っている、2mを超える自然の草がボーボーに生えている所に囲まれた、


 少し傾いているのが些か不安ではあるが、ここ夕美映町でも10位以下にはランクインする。古臭い家屋である、


夕美映ゆうみばえ新聞販売店」。


 早朝白太は一人暮らしのアパートを出。真っ暗闇の中小走りで向かい、販売店に着くとまずは新聞を受け取って。新聞配達だー、よっし!! 今日こそ! と気合を入れたのち……、


 まさかあんな百匹の魑魅すだま魍魎もうりょう→白太の頭ん中での解釈の変換=お化けが

〔意味合い同じだけども随分可愛くなったでねえか(!? まさか……お前、………方言!!! …ハイポイッヘッ)。〕


 空中で行脚する光景を見る羽目になるとは思っていなかった。と毎回新聞を配り終えるのは遅いが、いや今日のは本当に特別。


 そう店長に訳を喋ろうにも舌が上手く回らずで、白太はいつものようにまた店の外で店長にどやされ、自分自身にもどかしく、悔しい気持ちを抱かせてしまっていた


「お前、いくら軽度の知的障害があるからといって、この夕美映新聞配達店の看板、もしも自分のおろそかから降ろさせてしまっても、責任とれねえだろ? そしたらどうすんのよ!? 俺の生活」


 そんな言葉を放ったのは新聞配達だけで飯を食っている、髪の毛は金髪・上はシルバーのダウンジャケットに・下はスウェット・足は痩けたサンダルという、白太と同じ新聞配達員の顔と身体もやたらと細身。ある意味斬新な20歳後半の「野上下のがみした」。


 白太が毎回新聞を配り終えるのが遅くなることで店の信用がなくなり、購読者から新聞を「止められて」自身の私生活に影響を及ぼしかねない、と吐露する。


 日はもうとっくにバッチり上がってはいるのだが、目はパッチり上がっていない、だから野上下のがみしたは、あまり覚醒はしていない。


 夕美映川の蒸気霧じょうきむを受け、冬の始まりを告げている町内放送が、お仕事成功作戦会議の邪魔をしているようだ。そのせいもあってか野上下のがみしたは、店長に今日こそいっておきたいことがあった。


「う〜〜ん、白太の事情を考えればだと……。だけども、新聞配達員の仕事は始めてもうすぐ二年になるし、俺っちの動画にもちゃんとした時刻にこれたのもあるから、そろそろ仕事の方だってキッチリした時間に終えるのも、やろうと思えば出来るんじゃないのかな。な、白太。そうじゃないか?」


「あの、ぼ、僕は」


 同じく仕事の先輩で、野上下のがみしたよりも長身の年齢は30代前半、頭がモジャモジャな上に中太り、デニム生地のオーバーオールに七分袖Tシャツと


 いかにも冬が幸せ・夏地獄な服装をした出で立ち。こちらは「屋磨やま」。


 昼間は地方のここ夕美映町から「VTuber」として動画を配信。白太には最近VTubeというより、屋磨やまが同じく配信している「YouTube」のチャンネルの動画の方へと、無事出演を果たしてもらった。彼は日頃からVTuberと新聞配達との両立で生計を立てている。


 屋磨はこれから、本当にしっかり配達をやっていけるかどうかの新聞配達員としての責任にも似た確認を、白太に問うた。


「僕、次のシフトの時までには、※ケアマネージャー※ の人に、とりあえず、相談して、みます」


 とはいったものの白太には、この因習的いんしゅうてき、な田舎町にもある介護保険施設「夕美映綺麗ゆうみばえきれいセンター〔ちょっとださい……〕」。


 この町で唯一設立されている機関へと、特別な手当てで契約をし、訪問看護を割り当ててもらい自身へと担当させていただいているケアマネージャーの『片倉さん』に、


 新聞配達時間が毎回遅れることは、連絡・相談もして一緒にいくつも策を考え、案を出し尽くすぐらい話もしてきたのだが、結局。新聞を早く配り終える。そのどんな方法も白太にとってこの深刻な問題のそれではなかった。


「それももう全部試してみたんだろう? う〜ん、どうすりゃいいんだろうなあ」。


 頭を左右に片手で「グッグッ」と倒しながら、頭皮が若干薄くなっているのは至って全く悩んでない。夕美映町ゆうみばえ新聞配売店店長「田灘たなだ」は、髪の毛がないことを男の勲章だと自分で自負している気前のいい男である。


 白太のことについては常日頃、小学生であり店の営業に支障をきたす問題のある従業員、として見ているが同時に。


 白太のこれからの行き先のことを、心から心配している。


 そのことでずっと新聞配達の遅さに尾を引きながらも、気にならない頭を抱えて悩み一所懸命に、真剣になって白太のこの問題に、ぶち当たってきていた。


 彼には仕事終わりに店長特製の飴は和らげ、鞭は柔らげて〔飴は合うが、鞭は似合わない〕。器用に白太の想いには交互に新聞を仕分けるように、毎回の宿題。無茶はおよして。


〔だーめーダーメーだよーー、オレ~~〜!!! ……………〕


 どちらにせよ白太は強い『念』を、仕事終わりのお土産に販売店の面々に持って帰ってくる。悪い時にはイライラして野上下は販売店内の座椅子を蹴ったこともあるが、


 時に販売店と提携している企業から提供でいただいた飴に変わる饅頭を与え、棚田はお叱りという名のむちつ。でもその『念』から彼の愛くるしさごと見護るしかなくなる。


 脳の学習障害に関してはさして同程度なものだが、同じ障害の影響で仕方なく自己中心的になってしまう子とはタイプも人格も、年相応とはまるで当てはまらない。


 白太はちゃんと田灘店長の施しには認識はしていて。共に、感謝の思いも田灘たなだ店長と『おばあさん』に、その思い。ちゃんと抱き持てていた。


 この日の早朝、魑魅すだま魍魎もうりょうを目撃した白太ではあったが、本来【それが】付け入る隙など与えないぐらいの「田灘たなだ店長」ひいては『おばあさん』と白太には、人・対・人の、


 奇跡しかいえぬ程たゆみない情で育まれし、生まれし〖夢解ゆめほどけぬむすび〗。があったのだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る