第25話

 俺の名前は佐藤一浩、27歳。佐藤探偵社に在籍する探偵だ。

 佐藤探偵社は100ほどの社員がいる大手の探偵社で、俺の爺さんが創設者だ。今は父さんが社長をしている。

 探偵一家に生まれた俺は、小さい頃から探偵となるように鍛えられてきた。探偵になりたくないと反抗したこともあったが、家業を継ぐために大学卒業後、入社した。

 社員の信頼を勝ち取れと下っ端からのスタートされられた。めげずにコツコツと頑張り続けて5年、5人編成のチームのリーダーになっていた。佐藤探偵社では依頼の内容や難易度でチームの人数が決められる。チーム内では俺より年上がいるがリーダーとして気丈に振る舞わなければいけない。大変だ。けれど父の期待に応えるため、しっかりチームリーダーをやり遂げてみせる。

 ショピングモール内で流動的に交代させながら尾行をしていた。対象の女性が入った店の向かいにある店ではっていた。

 対象は今のところおかしな動きはしていない。同行者の男性は確か同じ会社に勤めていたはず。ファイルに載っていた気がする。

 試着室に入った対象は女性の二人に任せ俺は同行者に注意を向けていると、

「ひさしぶりだね、一浩君。今何やってんの?」

ある男にいつのまにか隣に立たれ、肩を組まれていた。反射的に攻撃しそうになった体を止める。

 しっかりと周りも警戒してしていたのに、全く気づかなかった。相変わらずの凄腕だ。

「……そういう総一郎先輩はショピングですか?」

 この男は丹波総一郎。俺が反抗をやめ、家業を継ごうと思った原因の人で、中学の時の先輩だ。

 俺の父なんかは先輩のことを嫌っている。『あいつは依頼者のためじゃなくて、自分が楽しむために探偵をやっとる。ああいうやつはスリルを求めて危ないことをする。一浩お前はああなっちゃいかん。あいつは自分のために依頼者が居ると思っとる。お前は依頼者の為に自分がいると思いなさい』と、よく言われたもんだ。

 中学生の時はよくわからなかったが、大人になって父の言ってることを理解した。

 父は総一郎先輩のことを気に食わないと思っているが、実力は認めているようで『実力があるからタチが悪い』とも言っていた。

 俺も総一郎先輩に憧れている。

「いや、俺も仕事なんだ。それでさ今一浩達が尾行している人について教えてくれない?」

 何やってるのと聞きながら、ばっちり自分達が誰をつけているのかをわかっているようだった。

「先輩の頼みでも無理っすよ。情報を漏らしちゃいけないのは先輩だって知ってるでしょ」

 俺が組まれた肩を解こうとするが先輩ががっちりと力を入れて解けなかった。

 総一郎先輩はより顔を耳に近づけて小声でこう言った。

「もちろんタダじゃないよ。ここだけの話、俺は一浩達の対象と一緒にいる男性を尾行してるんだよ」

 ……はっ?今この人なんて言った?互い調査対象が一緒にいる?どういうことだ?

「お互い対象の相手を知ってるのに調べるのは非効率だろ。ここは腹を割って話さない?」

 混乱している俺に総一郎先輩はそう囁きかけてきた。

「……いや、でも……。依頼者との契約が……」

「そんなの言わなければバレないって。一緒に調べた方が全容がわかるぞ」

「う〜ん……」

 俺は頭を悩ませる。

 先輩と情報を共有すべきかどうか。チームリーダーとして自分はどうするべきか。

 どっちの判断が正解なんだ。


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