第21話

 ターゲットとは20〜30メートルの距離をとり、ターゲットと自分のとの間に盾——別の通行人を挟む。これが尾行するときの基本的な位置どり。

 だが尾行はバレないように変化する周りの状況に合わせる必要がある。人混みの中では見失うことがあるので2〜5メートルまで近づき、逆に人が少ないときは足音や物音を鳴らさないようにし遠くから尾行する。

 ターゲットが曲がり角を曲がるときや信号が点滅しているのにもかかわらず渡ろうとしている場合、走って距離を詰めなければならない。

 尾行はターゲットだけを見るのではなく全体を観察する必要がある。

 他にもいろいろ気にしなければならないことがある。ターゲットが急に振り返ったときの対処法やターゲットが建物に入ったときの行動とか。雨の日は傘をさしているため難易度が高くなる。

 ターゲットの性別、職業、年齢、性格、時間帯に天気、街の様子。多種多様な状況に対応しなければならない、そう尾行とは奥が深いのだ!

「でも、やっぱり暇だよね」

 否定することはできない。

 尾行し始めて5日目。ターゲットである壷井靖友は残業で遅くなる事はあっても、家と会社を基本往復しているだけだ。キャバクラとか行かないし当たって真面目な生活を送っているようだ。

「……いいか羅地助手。人が毎日出すゴミを収集する人がいるから俺たちは綺麗な街で生活することごできてる。彼らだって本当はゴミの片付けなんてやりたくないだろう。地味で臭くてルールを守らない奴もいる。やってられるかと思っているだろう。けどやらなくてはいけない。何故なら重要だからだ。地味で面倒臭い事は重要なことは多い。今やってる尾行も重要なんだ」

「そうなんだろうけどさ」

 羅地助手が言いたいこともわかる。俺も初めて尾行したときはすぐ飽きた。早く悪いことしろよとターゲットに念を送ったりしていた。そんな俺に比べたら羅地助手は忍耐強い方だろう。まだ子供なのにな。……冷静に考えてみると夏休みなのに朝から晩——羅地助手は5時に帰るが——まで尾行させるとはひどい大人だな。

 羅地助手は親と交渉してこの夏休み中は門限6時になったらしい。

「夏休みの宿題とか大丈夫なのか」

「あんなの夏休み入る前に終わらせてる。日記以外」

「夏休みの日記に尾行してるなんてこと書くなよ」

尾行させてる俺が最低の大人と思われるからな。

「書くわけないよ。というか書けるわけないよ」

そりゃあそうか。絶対学校で変な奴認定されるからな。

「明日のことは書けるかもな。明日は土曜日だ。壷井晴美さんからの情報だとターゲットである靖友は会社の友人であるヒロキなる人物と遊びに出かけるらしい。稲海も大学ないからこっちにくるらしいから、ターゲットたちが行く場所で尾行は俺と稲海がやるから羅地助手は遊んでてもいいぞ」

「いや、やる。ターゲットの行動が違ってくるのだからしっかり見てないと」

「真面目だな」

俺だったら絶対遊んでたわ。

「わかった。じゃあ明日な。もう帰らないと門限にひっかかるからな」

「明日はどうするの?」

「壷井晴美からもう少し行き先とかの情報を教えてもらってから連絡するわ」

「了解。じゃあ明日」

「おう、明日な」

羅地助手は小走りで駅に向かった。

 まだ会社から出てくる気配はなし、靖友は今日は残念だろうか?

 一人になったし余計に気を引き締めてないとな。

 調査期間はとりあえず1週間。この土日に何か動いてくれれば助かるのだが……。

 

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