第20話
「壷井靖友、W社勤務の会社員で係長。男色の気はなし。31で係長とは優秀だな」
「31で係長なのは優秀なの?」
「ベンチャー企業とかならそうでもないだろうけど普通の会社だと40手前で係長になるんじゃないかな。会社勤したことないからわかんないけど。うわぁ、モテそう」
より不倫している確率が上がる。
依頼があった次の日の朝から俺と羅地助手は壷井晴美とその夫、壷井靖友が住むマンションが見える場所で張り込み、靖友が出てくるのを待っていた。
「いいか羅地助手。意外に軽視する探偵もいるが、張り込みや尾行は重要だ。優れた探偵は尾行がうまいものだ」
「うん」
「そして探偵の尾行や張り込みは警察とは少し違う」
警察は尾行する人物を犯人だ仮定し、逮捕する前提で行動する。それに対して探偵の尾行や張り込みは逮捕するために行うものではない。
警察は警察手帳を見せれば周囲に協力してもらうことができ、周りの目をそこまで気にする必要はない。
しかし探偵は——
「探偵には演技力が必要。その場所に溶け込むように自然に振る舞うこと、チームで尾行するときでも1人で張り込む気持ちで、緊張感をもってでしょ。ちゃんと覚えているって」
羅地助手が応える。
昨日壷井晴美が帰った後、打ち合わせを何回もしたので大丈夫か。
「それにしても、総一郎。スーツ似合ってるね」
「あんま嬉しくないわ」
出勤風景に紛れるよう俺はスーツを着ていた。ネクタイはせずクールビズだ。俺は羅地助手みたいに超人的に目がいいわけじゃないのである程度ターゲットに近づく必要がある。
羅地助手は半袖に短パン。大きなリュックを背負い夏休みを楽しむ元気溌溂な子供の装いをしていた。羅地助手はその目を生かして少し離れた場所からの尾行だ。
会社が多い場所で子供は目立つが子供は警戒されない利点がある。
だから羅地助手には俺がもし怪しまれたら近づいて大人と子供の二人組になり誤魔化す作戦だ。
「——出てきた」
俺と羅地助手が尾行の基本を確認をしていると見張っていた部屋からターゲットである靖友が出てきた。
「羅地助手どうだ?」
「うん、昨日見せてもらった写真の人と同じ顔と体格をしてる」
箱する人が違ってたなんて洒落にならないのではじめに写真で見た人物と同じか確認しなければならない。そしてさらに生で見てよりターゲットの情報を上書きする。
「これから尾行を開始する。雑談は基本禁止。連絡は携帯で。電車通勤だから電子マネーをすぐ取り出せるようにしとくこと、電車内では羅地助手は同じ車両、俺は隣の車両にのる。ターゲットが降りる駅は覚えているな」
「大丈夫。ばっちし」
「よし、いくぞ」
「了解」
俺たちは尾行を開始した。
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