第19話

「夫が不倫してるか調べてくだい」

俺と羅地助手の目の前で座っている壷井晴美は沈痛な面持ちでそう言った。

 夫が浮気しているかもしれないという不安と怒り。夫を信じきることができない自分への情けなさ。そんな二つの感情が彼女の胸中に渦巻いているのだろう。

「不倫調査ですか……。どうしてご主人が浮気してるとお考えで?」

「これといった証拠はないんですけど……。最近ちょっと帰りが遅いですし……。携帯を良く気にしているような気がするぐらいなんですけど……」

 これはもしかして、

「女の勘ってやつですか」

「……はい」

でた〜。浮気や不倫にやたら働く女の勘。ホルモンの分泌量に関係してるとかなんとか。

 個人的には探偵のようにたくさんの知識を蓄え、観察し、論理的思考によって導き出すという一連のプロセスを意識的にやっているのではなく、無意識のうちに行いその結果だけが意識に浮かび上がる。女の勘とはそういうものだと思っている。このプロセスを女性が意識的にできるようになったら、本当探偵要らずだ。

 恐ろしや恐ろしや。

もうこれは夫ギルティでは?

「新婚ですか?」

「いいえ、結婚してもう2年になります」

 ナチュラルメイクに落ち着いた感じの服装。独身女性じゃないからこの質問は大丈夫。なはず。

「お二人のご年齢を伺っても?」

「私は28で、夫は31です。私達は会社の元同僚でそこで出会ってお互い惹かれあって一年ぐらい付き合った後結婚しました」

「ヘェ〜社内恋愛だったんですか」

 夫の年齢も結婚してたった時間も嫌な感じだ。魔が差しやすいというか、モテやすいとうか。

「お子さんはいらっしゃいますか?」

「……今お腹にいます」

「それはおめでとうございます」

「でもまだ夫には伝えてないんです。ついこの間病院にいってわかりました。でも、もし夫が不倫してたらと思うと……」

壷井晴美さんは俯いた。

 大丈夫ですよ、とか無責任な事は言えない。探偵ができるのは真実を明かすことだけだ。

「わかりました。しっかりと調査させていただきます。さしあたってご主人の情報を教えてください」

 

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