第17話
俺は羅地助手見習いを安全に家へとどけるため、一緒に夜道を歩いていた。羅地助手見習いの家は茜さんが暮らすアパートから歩いて30分の所にあるらしい。
「お手柄だったな、羅地助手見習い。彼女の名前が分かったのは君のおかげだ」
「あんなの僕じゃなくてもできる」
羅地助手見習いは昼食後茜さんを見ている怪しい奴を見つけたらしい。でも、そのあとどうすればいいか分からず俺に報告したのだ。
稲海に話していたら間違いなく盗人である工藤めいに突撃しにいっただろうから、稲海に話さなかったのはいい判断だ。
前を歩いていた羅地助手見習いは足を止めて振り返った。
「ねぇ、どうして彼女が総一郎の目の前に現れると思ったの?」
褒めたのに嬉しそうではない様子だったのはまだ納得してないからか。
いい目をしている。
視力のことではなく、意志のこもった目だ。
終わったから満足するのではなく、自分が抱いてる疑問を解決したいのだろう。
「じゃあ今回のおさらいするか」
俺達は歩きながら話す。
「昼前、俺が羅地助手見習いに推測できることはまだあるって言ったが何だかわかったか?」
「うん、時間だろ。盗んだ時間の間隔。だんだん短くなってきてた」
茜さんが盗まれたかもと言ったのは4回。2ヶ月前、1ヶ月前、後で聞いたのだが2週間前と五日前。
犯行ペースが早くなる。だんだん衝動が抑えきれなくなってきたからだ。
「だから総一郎は今日大学にいる可能性が高いっていったんだよね」
「そのとおり」
「でも総一郎は1番初めに茜さんから話を聞いた時点で犯人像をストーカーにしてたよね。
嫌がらせの可能性や茜さんがうっかりして無くした可能性をほとんど考えてなかった様子だった。どうして?」
あの時俺の様子も見てたのか。
「無くした物だ」
「無くした物?」
「そうだ。無くなったのは、傘に水筒、シャーペンにタオル。単純な盗みだったらもっと高価な物を盗むはず。茜さんは心が広そうだから、他人から嫌われることは考えにくい。あるとしたら同性からの嫉妬。嫌がらせだったらシャーペン一本、盗むより筆箱ごと盗ればいい。それに案内してもらいながら沢山、茜さんと話したが一度失敗したらもう二度としないように努めるらしい。1回目はうっかりかもしれないが4回は流石に考えにくい。それに盗まれた物には一応、共通点がある」
「共通点?」
「茜さんがよく使っている物だという点だ。そもそも盗みってどういう奴がやるか教えたよな?」
「盗むときのスリルを楽しむ人。お金がなくてお金が欲しくい人。欲求が抑えられなかった人」
「工藤めいを見つけた時、羅地助手見習いはどう思った?」
「服のサイズが合ってなかった」
「あの服装含め工藤の格好は、茜さんのものと一緒だ。羅地助手見習いが言ったように自自分のサイズじゃなくて茜さんのサイズに合わせた徹底ぶり。工藤めいは何が合ったのか知らないけど茜さんを好きすぎて、愛しすぎて茜さんになろうとしたんだろう。だから彼女が使っている物が欲しかった。様付するほど心酔してたしな」
同じ服を持ってたら話しかけてもらうきっかけを作ることになるしな。
「同性だから盗むのは比較的簡単だっただろう。稲海も千晶さんも男を疑ってたしな」
「……勝負にしたのには理由があるの?」
「あの二人はまたわかるが嘘つくことや偽ることは苦手だろ。あの二人が血眼になって見張ってたら流石に盗めない。しかも休みの時間は基本俺がいたから近付きづらい。そうなると会えるのは茜さんが一人の時。つまり……」
「つまり家に帰った時。茜さんは一人暮らしだから、二人っきりであえる。……ストーカーに行動を制限したんだ」
「そうゆうこと」
稲海と千晶さんを二人で競わせるのは面白そうだったから単に暇つぶしの意味もあったけど。
「それに今まで彼氏はいないと思ってた茜さんが、休みの時間ずっと喋ってる男が急に出てきたらどう思う」
「……彼氏だと思う」
「そうなるとストーカーは当然怒る。恋人の存在は火に油だからな。裏切られたと思ったストーカーは何かしらのアクションを起こす。SR理論も教えたろ」
SR理論とは心理学の学習理論だ。『ある刺激を与えたら、ある反応が返ってくる』とうい考え方だ。
しかも今回の相手は激情して冷静でないストーカー。返ってくる反応としては、好きな人に詰め寄るか、邪魔者を排除すると言った行動が考えられる。
「覚えてるよ。でも工藤めいが総一郎の方についてくるかはわからないじゃないか。だけど総一郎は夜みんなでご飯を食べたあと、少し離れたところで見てろって言ってきた。それは彼女が総一郎の方に来るのがわかってたからじゃないの?」
「可能性が高いとは思ってたよ。経験則だけど……憧れの相手と同化しようとするストーカーは怒りを異性に向けやすいからな。もちろん、茜さんの方に行く可能性もあった。だから念のため稲海と千晶さんには茜さんのアパートを一時間張ってもらうように夜飯のとき頼んである」
結局俺がみんなの夜飯のを奢ったのだから少しは働いてもらはないとな。
「……やっぱり総一郎はすごいよ」
「納得したか?」
「うん、僕はまだまだだってことはわかった」
「それがわかるだけでも立派だ。素直に自分の力量を見極めるのは難しいからな。……明日からも勉強な」
「うん、色々教えて」
その言ったら羅地助手見習いの顔にはやる気が満ち溢れていた。
「ああ、俺が一流の探偵にしてやるよ、羅地助手」
「……えっ、見習いってつけないの?」
「今日で見習いは終了だ。これから普通の依頼にも付き合ってもらうからな。見習い助手じゃカッコつかないだろ」
毎回見習いって言うのも面倒くさいし。
「よっしゃー!」
羅地助手は大きくガッツポーズした。
興奮している羅地助手と同様、俺もこれからが少し楽しみだ。
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