第13話

 羅地の思い至らなさに悔しさをいだいていた。

(盗人を見つけた後のことを完全に失念していた。探偵は推理するだけじゃだめなんだ。こんなんじゃ総一郎にずっと見習いって言われ続ける)

 羅地はそれは嫌だった。

 3ヶ月だが、丹波事務所に通ってよく思った。

 この人に認めて貰いたい。

 僕のことをわかってくれる人の力になりたい。と

(盗人は茜さんの行動を追っていたら必ず見つけることができる。盗むためには近づいてくる必要があるから……でも見つけた後はどうすればいい?)

 犯人だと証明するためには証拠を提示するか、自供させるか。

(仮に盗人を見つけて茜さんの盗まれたものがあったとしても、今度はこっちが茜さんの物だと証明する必要がある。自供させるのも今の僕じゃできる気がしない。まだ総一郎に相手をはめるようなことは教わっていない。考えろ……。総一郎から教わったのは、目の付け所と探偵の心構え。それと常に考えること。ありとあらゆることに疑問を覚えろって言ってた。総一郎はできないことはさせない。……そう言えばさっき総一郎は考えることも推理することもまだあるって言ってた。

考えることは見つけた後のこと。じゃあ推理できるところって何だ。他に何がある……)

「……い。……おい羅地助手見習い!」

思考に沈んでいた羅地は肩を触れられ現実に意識を戻された。

「もすぐ講義が終わるから教室行くぞ」

「うそ、もう90分たったの」

 羅地は慌てて食堂につけられている時計を確認する。

「85分な。社会人の基本。5分前行動だ」

 食堂を出る総一郎に置いていかれないように追う。

 丹波総一郎の歩いて後ろ姿を見て、羅地はふと疑問に思った。

 どうして総一郎は勝負の時間制限を5時にしたんだろう。と

(盗人が大学にいるかどうかわかんないはずなのに何で今日の5時までって時間制限をしたんだ。僕が夏休みだから門限の午後6時までだったらいつだって大学に来れるのを知っているはずなのに……。千晶さんが乱入してきたから?いや、違う。椅子に腰深くかけ、余裕そうな総一郎の態度。今日中に解決できると思ってる?盗人が今日大学に来ている可能性が高いと思ってる?どうして?僕は何か見落としてる?)

 教室の前にきてすぐ講義が終了した。

 生徒が続々と出てくる。茜も出てきた。総一郎は出てきた茜にすぐに近づいた。

「よし、じゃあまた案内してもらっていい?」

「はい大丈夫ですよ」

「羅地助手見習い。俺は茜さんに大学内を適当に案内してもらうから、稲海と頑張れよ」

「……わかった」

総一郎は茜さんと楽しそうに話しながら歩いて行った。

 実際周りからは「茜さん彼氏いたんだ」とか「俺狙ってたのに」とか聞こえてくる。

「羅地君おまたせ」

稲海と千晶が出てきた。

「稲海姉さん何かわかった?」

「全然ダメ、まったくわからなかった」

「千晶さんは?」

「私も収穫なし」

「そっか……」

羅地と稲海と千晶が集まっているとこに姦ましく女子大生達が寄ってきた。

「ねえ、稲海その子ってあんたの弟?」

「可愛い。今小学生?」

「あっ私お菓子持ってるよ」

「馬鹿ね。稲海家のDNAが入ってるならこんな賢そうな子じゃないでしょ」

「いやいや、ダメな姉と優秀な弟とかよくあるじゃない」

「あんた達失礼にも程があるでしょ!」

 稲海が怒ると蜘蛛の子を散らせたように去っていった。

「さあお昼食べに行こ、羅地君。腹が減っては戦はできぬ。だからね」

 稲海は羅地の手を取って歩き出した。

 (とりあえずできることをやろう)

羅地は次の講義は別の場所から教室の中を覗こうと考えた。







 

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