第6話
羅地少年と出会ってから2日後。その日は依頼はなく、いつもの暇潰しで過去の未解決事件を調べていた。興味を惹きそうなものはあるが、事件の全貌を解明するのには情報が足りなかった。午前いっぱいで調べたぶんをファイリングした。今度その事件現場近くに行くことがあれば調べようと思い、ファイルをしまったときインターホンが鳴った。
「はーい、今開けますよ」
俺が扉を開けるとそこには羅地少年が立っていた。
「いらっしゃい待ってたよ」
中に入るように促した。
「そこのソファに座ってくれ」
「……わかった」
「コーヒーか紅茶かココアかどれがいい」
「……ココアで……」
俺が飲み物を準備し持っていくと羅地少年は室内を見渡していた。
「本当に探偵だったんだ」
「まあね、……そのことで一つ訂正というか注釈したかったんだ」
「なに?」
「瞳孔が開くとき人は嘘をついているって言ったけど、正確にいうと興奮している時に瞳孔が開くんだ。普通の子供には前の説明でもよかったけど……君に教える場合は正確すぎるくらいがちょうどいいと思うからね」
「……わかった」
「ココア飲むといいよ」
俺がコーヒーを飲むのをみて、羅地少年がココアを一口飲んだ。
一息ついたところで、まぁだいたいわかっているがここに来た目的を尋ねることにした。
「それで目が異常なはどいい羅地少年の要件は何かな」
一応、君の悩みを知っているアピールをしておく。
「丹波さんは僕の悩みを解決してくるの?」
「それはできない、君の悩みは君だけのものだ。君が解決するしか方法はない。俺にできるのはその手助けだけだ」
そういうと羅地少年は下を向いて黙ってしまった。
でもしょうがない。悩みとは元来そういうものだ。人はそれぞれ違うものを感じて、自分の中で世界を作り上げ、その世界で喜怒哀楽を自分で生み出している。自分で生み出したのなら自分でどうにかしなければいけない。
「……僕はみんなとは違うの?」
「違うよ」
即答すると少年は寂しそうな顔をした。
みんなとは違うことは不安かもしれない。でもみんなと違うということは悪いことじゃない。
「羅地少年、そもそも同じ人間なんてこの世にはいなし、どんなに頑張っても誰かと他の人にはなれはしない。でも悲観することはない。足の速いやつ、頭のいいやつ。みんなそれぞれ持ってるものが違う。そういうそれぞれ持ってるものをを才能と言うんだ」
「才能……」
「君のその目も才能だよ。しかも一級品の才能だ。今君はその才能に振り回されている状態だけど使いこなせれば、何かの一流になることもできる。で、俺ができるのはその目との付き合い方を教えるだけ……。つまり才能を伸ばすことだけ。どうする……その目を忌み嫌い嘆きながら生きていくか、その目を使いこなし自分はこういう人間だって胸を張って生きていくか、後は君次第だ」
「……」
羅地少年はしばらく黙っていた後、顔を上た。結論が出たようだ
「僕に目の使い方を教えてください」
強い目をしていた。それは小学生がするようなものじゃないが覚悟を決めたようだった。
「よし。それじゃ次は、報酬の話をしようか」
「えっ……」
「自分は何もしないで、何かを得ようなんてそんなに世界は甘くないよ。俺もひとりの少年に付きっきりでいられるほど暇じゃないでだ」
「でも、そんなにお金持ってない」
「安心して、いいよお金はとらない。そのかわり、羅地少年には俺の仕事である探偵業を手伝ってもらう。もしそれでもいいならこの手を握って」
俺が差し出した手を羅地少年は勢いよく握った。
「よろしくお願いします!」
「こちらこそよろしく。羅地助手」
羅地少年は期待と不安が混じった様子で、それは俺も同じだ。
俺が名探偵になるまで、退屈しのぎにはなりそうだ。
こうして、丹波探偵事務所に些か若すぎる少年が仲間入りすることになった。
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