第3話

 丹波探偵事務所への帰り道にある公園で、俺はベンチに座りビールを飲んでいた。公園は狭く、あるのは並んでいる二基のベンチとブランコのみ。ドラ○もんに出てくる空き地の方がまだ遊べる。

 そのため子供も大人もはあまり来ないのだが、今日は珍しく隣のベンチに小学生3〜4年生ぐらいの少年がちょこんと座っていた。

 傷ついているランドセルを背負い何処となく沈んだ顔つきをしていた。

 いじめられてるのかもしれないなとは、思ったものの俺にできることは特にない。いじめられた経験をもとに優しく人間になってくれ。

 少年から意識を外し懐から封筒を出し、もらった報酬を確認する。

「おっ、本当に色つけてくれてた。やっぱいい店長だな」

探偵事務所という自分の城をもち、そこそこ依頼があるからお金には困らず、太陽がまだ出ているうちからお酒も飲める。何不自由ない暮らし、ああ何て最高……

——じゃなああぁぁぁぁぁぁぁい」

 大声が住宅街に響いた。

 自分の城?

 押しかけバイトにほぼ占拠されてる。コーヒー派なのにいつのまにか紅茶ばかり。

 もらったビールだって本当なら事務所でゆっくり飲みたいところだが、押しかけバイトがまだ太陽がある時に酒を飲むとうるさいのだ。俺の事務所なのに俺に決定権がないとはこれどうゆうことだ。

 それに俺は名探偵になりたいのだ。

 それなのに来る依頼は、浮気調査にいじめの調査、万引き犯Gメンにペットの捜索。

 違う!違うんだ! 

 俺は殺人事件や凶悪な難事件が解きたいんだ。

 そして、事件の裏に潜む黒幕と命懸けの勝負とか駆け引きとかしたいんだ。

 修羅場は修羅場でも不倫とか、三角関係のとか求めていない修羅場をくぐらされてる。

 やめて、なんで仲裁とか俺に求めてくるのか?

「 あれれ〜おかしいぞ〜」とかいう小学生は確率的にありえないぐらい事件に遭遇してるというのに……。おかしいのはお前自身だと言ってやりたい。その事件を少しぐらいこっちに分けて欲しい。切実に!

 退屈だ。刺激ある事件が全然ない。

 

「あーあ、なんか殺人事件とか起きないかな」

 俺の口からつい不謹慎な言葉が漏れでた。

 

 ふと視線を感じた。

 隣のベンチにいる少年がこちらをガン見していた。

 おいおいおいおい。これもしかして俺、超やばいやつじゃないか。酒飲んで、突然奇声を上げて、人殺しを求めてるってやばくね。

 いやまて、落ち着け。

 小さな声だったから聴こえてなかった可能性もある。

 さっきちらっと見た時ランドセルに防犯ブザーがないのは確認済み。

 よし大丈夫。ノープロブレム。


 しばらく少年と見つめ合っていた。

 目で俺は危ないやつじゃないと訴えかける。

 俺は鋭い目をしてないし、死んだ魚のような目でもないから、怖くないはず。

 少年は俺から目を離さず、じりじりと距離をとりポケットからスマホを取り出した。


「ちょっっっと待ったぁぁ!」


 手を前に突き出し、全力で声を上げた。

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