第2話

「いや〜今回も助かったよ、丹波くん。万引き犯捕まえてくれてありがとね。はいこれ、今回の報酬。ちょっと色つけといたから。」

「おっ、本当ですか⁉︎ありがとうございます」

 地元に愛されている店の店長から報酬の入った茶色の封筒をもらう。

「それにしても、相変わらずの凄腕だね。頼んで2日目なのにもう捕まえちゃうなんて。

よっ!凄腕Gメン!」

「そんなに持ち上げないでください。今回もそんなに難しい依頼じゃなかったですし……。あっそれと店長。俺は万引きGメンじゃなくて、探偵ですよ」

 そこを間違えてもらったら困る。

「もちろんわかっているよ、丹波探偵。あっこれビールも持ってきな」

「どうも。……それで店長あの女性——新田さんを警察に突き出すんですか?」

 ついさっき店を出たところで俺が捕まえて、今簡単に取り調べ終えたところだった。いま少し開けてある扉の向こう、事務所のパイプ椅子に座っている。

「今回は反省してるみたいだし許してあげようと思ってる」

 彼女はそういっていたが、俺は反省してるとは思っていなかった。動きやすいスニーカー。人相を隠す大きめのサングラス。視線を誘導しようと少し胸元を開けていたこと。考えられている服装だった。

「相変わらずの人がいいですね店長」

「それにしてもあんなお金持ちそうな人が万引き犯だったとはね。たくさんお金持ってそうなのになんで盗もうとしたのかな」

「それは……スリルを味わいたかったのかもしれませんね」

 多くの万引き犯はたくさんお客がいるなかで紛れるようにして盗みを働くもの。しかし彼女はあえてお客の少ない時間帯を狙って来たのはそういうことだろう。

 わからなくもなかった。つまらないのだ、平凡な日常が。

「それとお金持ちかどうかはわかりませんよ」

「どうしてだい。ブランドバックもってたし彼女セレブ感出てなかった?」

「あえて出してるのかもしれませんよ。今店長が考えてるみたいに、お金持ちは盗まないと思い込ませるためかもしれません」

大型デパートや高級店とかではなくスーパーマーケットに普段現れないお金持ちの雰囲気をもつ人が現れたらどうしてここにと疑問を持つことはあるだろうが、盗みに来たとは考えない筈だ。お金があるのに盗む必要なんてないから。

 彼女はまさにその心理をついてきたのだろう。

 何より、彼女のいやらしいところはしっかりと商品を買っているところにある。

 カートの上に置いたカゴとブランドバック。カゴに入れると見せかけてバックの方に商品をコッソリ入れていた。

 誰がブランドもののバック中に魚の切り身とか入れると思うだろう。

 盗みだけじゃなく、いっかいレジを通ることによって容疑者から外れようとしていた。

「それにビニール袋が有料になったばかりの中、彼女はビニール袋を買っていた。ビニール袋を買う人より買い物袋を持参する人の方を怪しむのは当然ですからね」

 綿密に練られたような服装や行動が彼女の頭が良さと計画的だったことが伺える。そのため彼女は再犯の可能性が高いと思われた。

「はぁー……。なるほどねえ」

 店長はしきりに頷いた。

「それよか、店長。もっと監視カメラ増やした方がいいんじゃないですか?長期的に見たら探偵雇うより安くつくかもしれませんよ」

「私は機械があまり得意じゃないから。それに私や店員が映像を見て見つけるより、丹波くんの方見つけるのが早いからね。君に頼んだ方が楽なんだよ。それに継続的顧客がいた方が君も嬉しいんじゃないの」

「そらじゃあ遠慮なく稼がせてもらうことにしますよ。これからも丹波探偵事務所をどうぞよろしくお願いします」 

 そう言って頭を下げた後、報酬とビール片手に店を出た。

 

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