第十一話 アケル大樹海

 密林国アケル北部。

 見渡す限り続く森林の大地『アケル大樹海』それは───


 周辺の民ですら足を踏み入れぬ、南国の魔境。

 激しい起伏とやぶに隠れて、刃物のように鋭く突き立った火山岩は人の足をすり減らし、湧き上がるマナが渦巻いて魔力溜まりを作り出す。


 その樹海の上空を、おびただしい数の魔物達が、群れをなして旋回を繰り返していた。

 それらは一体ででも、人の生きる希望を軽く摘み取る程の、凶悪な魔物である。


「……こりゃあ、こいつらが味方だって知らなかったら、この世の終わりだと思っちまうよな」


 朱絣しゅがすりの戦帯を肩から掛けた冒険者が、隣に立つ獣人へと話しかけた。


「いいや、分かってても、おっかねえよこんなモン……」


「ふ、はは! ……違えねぇ」


 その言葉通りに、この光景を遠くから目にした、周辺国の人々は『アケルが壊滅する』と早馬を駆らせた程だった。

 ワイバーン、グリフォン、ハーピィ、ストリクス、スフィンクス……その他、名前も確認出来ぬ、大空の悪魔達が一度に襲撃を掛けるなど、人々の常識には記されていなかったのだ。


「アル様……本当に三人だけで行くのか?」


 樹海を前に、森の強者であるはずの赤豹族、エリンが不安げに言う。

 その姉の腕に、怯えた様子の妹ユニが、そっとしがみついている。


「……この森は、こんなのは……普通じゃない」


「…………ずっと見られてる気がするの……」


 獣の勘だろうか、二人は森との境界の前に立ち、奥を覗き見ようとしただけで、心が食われ掛けていた。


「活火山が複数連なった土地だ。こう言う場所はマナの量も膨大、これだけ魔力溜まりが膨らんでいたら、森自体が精霊化してても不思議じゃない。

─── 耐性がなけりゃあ


 アルフォンスの言葉に、姉妹がびくりと森から眼をそらした。

 彼女達だけでなく、他の獣人も人間の冒険者も同様だった。

 自然の厳しさを知る彼らにとって、森は恵みを授けるものでありながら、生きるものを喰らう存在だとも理解しているようだ。


 圧倒的な自然の力は、時に押し寄せ取り囲み、そこにある命すら呑み込んでしまう。

 この入らずの森は、すでに巨大な命と同等な存在と化している。


「─── 俺達なら心配ない。

皆には樹海からアンデッドが溢れた場合、人の住む土地に流れないよう、せきき止めて欲しい」


「…………それは、もちろんやるけどさ。あたしはアル様が心配なんだ!」


 アルフォンスの背中に、姉妹がすがりつく。


「心配はありがたいが、今は俺に任せてくれないか?」


 その言葉に、姉妹は渋々離れ、タイロンとプラドも深く頷いた。



─── オニイチャ、見つけた



 眼を閉じて、樹海の前に佇んでいたティフォがそう告げると、戦士達に動揺が走った。


「……魔族、本当にこの中に、魔族が……」


 タイロンの声にも、不安げな響きが滲んでいる。


「ありがとうティフォ、どの辺りに……いる?」


「ん、イメージ、あげる」


 ティフォは紅い瞳でアルフォンスを見上げると、またすぐに樹海の奥へと向き直り、怖気のするような鋭い眼光でにらみつけた。


「─── そこか……」


「……むこーも、こっちを、みてる」


 森の雰囲気がより強くなった。

 そして、微かな穢れの魔力が、ポツポツと周辺に現れるのをアルフォンスは感じ取っていた。


「最短距離で、足場を作りますね」


 そう言って、ソフィアは仕込み杖を抜き、静かに構えた。

 彼女の体を、質量すら感じられる濃厚な神気が、渦巻くように覆って行く。


 そして、静かに切っ先をピクリと揺らす……



─── パァンッ! カカカカカカカカカ……



 落雷でも直撃したかという破裂音と、閃光が発せられ、細かく切り刻む斬撃音が、樹海の奥へと続いて行った。


「な……ッ! 今のは魔術……なのか⁉︎」


 我に返った冒険者が、目の前に大きく口を開いた、樹海の道を呆然と眺めて言った。


「…………似たようなもんだ。それよりも、奴らの気配が濃くなって来てる、後は頼んだ」


「「「オウッ‼︎‼︎」」」


 彼らは即座に連絡体制を整え、樹海に向けて陣形を整えた。


「ん? ソフィ、なんかまた、強くなった?」


「……ふふふ、恋を叶えた女神は、一味違うんですよ」


 ティフォは小首を傾げていた。


 ソフィアの奇跡で開けられた樹海の道は、地形の起伏も全て無視して、直線に刻み込まれていた。

 方向は先程、ティフォに示された地点に、ピッタリと一致しているようだった。


「─── さあ、行こう!」


 アルフォンスの声とほぼ同時に、戦士達の戦いの音が聞こえ始めた───




 ※ ※ ※




─── ザンッ


 白い内容物を溢れさせて、巨大な白蟻の頭から腹の付け根まで、バックリと口を開く。

 それでもしばらくは、切込みの入った体を地に擦り付けるように、その場でのたうち回る。


「……キリがねぇな」


 ソフィアの切り拓いた剣閃の道は、そこにあった物質は何処に消えたのか、完全に直線の通路になっていた。

 転がる溶岩石も、起伏ごと削り取られている。


 確かにティフォが言っていた通り、ソフィアの力が上がっている気がする。

 再会した時に、転位失敗してジタバタしてた光景が懐かしい……。

 あぅ、いかん、思い出してしまった……。


 歩くのに障害はなく、アンデッドの数も少ない、しかし森に棲みつく魔物や魔獣の襲撃は、うんざりする程多かった。

 特に現れる頻度が高いのは、昆虫系のもので、容赦なく群れで襲い掛かって来る。


 大抵の魔物は、ティフォが威圧して追い返してくれるが、虫にはあまり効果が無かった。


 数ヶ月の内に増えた、アンデッドを捕食して味をしめたのだろうか、時折、俺達ではなくアンデッドに群がるものも見受けられる。


─── ザザザザザザザザ…………


 足数の多い音が、樹々の向こうからさざ波の如く、近づいて来る。


「この白蟻さんのお仲間ですね、キリが無いです、本当に……」


「アリの仲間多いな、普通の剣だったら腐食してそうだ。アリも白蟻も酸を持ってるからなぁ……

─── 【夜想弓セルフィエス】ちりを払え」


 引き絞った銀色の長弓から、膨大な数の黒い矢が、その上空へと放たれた。

 一瞬の間を置いて、樹々に潜んで迫る白蟻の群れへと、降り注ぐ音が続いた。


 生木を裂くような、耳障りな断末魔が、広範囲から押し寄せる。


「うぅ……あんなにいたのかよ……」


「白蟻のにおい、他のがまた、あつまる」


 確かに酸っぱいような独特な匂いが、辺りに立ち込めている。

 昆虫系の魔物でも、群れをなすタイプは、体液やフェロモンで仲間を呼び寄せるものが多い。



─── ザザザザザザザザ…………



 早くも道の両脇から、足音のさざ波が漂って来た。


─── カッ!


 もう一度セルフィエスを構えた時、上空から無数の光線が降り注ぎ、白蟻達を焼く音が聞こえた。

 続いて黒い影が頭上をいくつも通り過ぎると、グリフォンの群れが飛来して、茂みの奥の虫へと襲い掛かっていった。


「おー、ごくろー!」


─── ゴロゴロゴロゴロ……


 拓けた森の一本道の上に、巨大な影が浮いている。

 ティフォの言葉に眼を細めて、ベヒーモスが喉を鳴らしていた。


「あー、あいつもネコ科なのか。いつの間にあんなに懐いたんだ?」


「んー、王だから。でも、虫はばかだから、言うこときかない……」


「いや、これだけでも大助かりだよ。ありがとうな。……それに虫系の魔物まで引き連れてたら、流石に変な噂が立ちそうだから……」


 今のままでも充分、変な事が広まってそうだけどな……。

 途中立ち寄った村とかでも、最初はえらくビビられてたし。

 

「ん……オニイチャ、この子、ついてきたいって」


「えぇ? デカイだろ、流石に……」


─── に゛ゃ〜ん


「いや、ネコっぽく鳴かれてもな?」


「そーだ! おまえ、ちぢめ」


─── ブワッ


 頭上を覆っていた影が、一瞬で小さくなった。

 巨大な質量が失われたからか、ベヒーモスの方に空気が押し寄せて風が起きた。


「にゃ〜ん」


「……万能過ぎて、俺には分からねぇよもう」


 子猫サイズに縮んだベヒーモスが、ティフォの足に擦り寄って甘えてる。

 体の釣り合いも子猫っぽいが、変な迫力は残したままだ。


 ティフォはそれをネコ掴みして、ポシェットに押し込む。

 ……あのポシェット、魔道具だけど大丈夫かな?

 当のベヒーモスは、ポシェットの口から顔を出して、嬉しそうにしている。


「……とりあえず、進むか」


 辺りからは未だ、白蟻をほふる魔物達の音と気配が続いているが、俺達は先を急ぐ事にした。




 ※ ※ ※




 行程の三分の一も進んだだろうか、とっぷりと日が暮れ、俺達は樹海の中で、野営をする事にしていた。

 強力な結界と、意識を外らせる術を施して、外敵へ備えはしてある。

 ただ、アリの群れを過ぎた辺りから、魔物も魔獣も気配がなくなり、正直拍子抜けしていたのも確かだ。


 瞬間転位で街とここを行き来しても良いが、何故か二人から懇願されて、樹海で野営する事になった。

 真正面から乗り込む気概を持て、とか何とか二人は精神論を宣っていたが、火を起こした辺りから顔がウキウキし出してる。


 夕飯は、フライパンでパンとベーコンを焼き、火に炙ったチーズを乗せるだけ。

 特に長い旅にもならないこんな時は、これくらいの方が満足出来たりするもんだ。


「……と、出来たぞ。熱いから気をつけてな」


 パァッと二人の顔は明るくなって、皿を嬉しそうに受け取る。


「…………なあ、もしかして精神論とか説いてたけど、野営したかっただけじゃねぇの?」


「「─── ギクッ」」


「声、そろって出てんぞ……」


 そう言えば、南部を出て以来、三人旅はしていなかった。

 タイロンと赤豹姉妹とも、だいぶ仲良くなったが、やっぱりこの三人だと安心する。


「いや、俺も楽しいしね……。大変な時だけど、楽しんじゃいけないって、訳でもないしな」


 そう言えば、俺も少し気を張り過ぎていたのかな?

 今、何だか凄く気持ちが落ち着いてる。


「ん、ガーってなると、いいこと、なくなるよ?」


 あれ? もしかして、そう言う事だったの?

 二人共、俺の事を心配してく……


「あ゛ち゛ち゛ち゛ち゛ち゛」


 ジト目のまま、パンを齧りとって、チーズをびろーんとやってる。

 薄い湯気を立てて、チーズの表面が脂でツヤツヤしていた。

 あー、汚れるけど、気分的に美味い食い方だわ、上あご火傷するけどな。


「……んふぅ〜♪ 野営はこう言う食べ物がい〜んですよねぇ。はふはふ……」


 ああ、二人共、やっぱり深い意味なく、野営したかっただけだなコレは。


 冷たいままの、チーズとベーコンをカットしたやつを、子猫ベヒーモスは呑気に食べている。

 そんな絵面のせいか、敵地の野営が妙にほんわかとした雰囲気になっていた。


「それに、なんか三人だけって、久しぶりで。隠さなきゃいけない事とか、気兼ねしなくていいと言うのは、気が楽です……」


 ソフィアの正体とか、俺の育った場所だとか、ティフォの事は一部には話したけど、話しにくい事は多かった。

 これが結構、疲れるんだよなぁ……。


「早いとこ、俺の出生の事を聞いて、話せる事と話せない事、せめてこれが分かれば良いんだけどな」


「そうですね。仲良くなった人に、話せない事があるのは、どーにも後ろめたいですもんね。

なんか……苦労かけちゃってますね私」


 ソフィアがしょんぼりしてしまった。


「いいや、その分、俺達は色々深く話せるようになったんだし。その……二人といる方が、俺、落ち着くんだよなぁ……」


 実際、里が超少人数だった上に、世代の壁もあったせいか、俺は『みんなでワイワイ』がちょっと苦手だったりする。

 と、気がつくと、俺の言葉に反応したのか、二人がニコニコしながらこちらを見ていた。


「……ん? 何だよ」


「「んふふふふ」」


「オニイチャの、そーいう、直球すき……」


 ああ、ストレートだったか。

 でも、なるべく気持ちは伝えていこうと、ソフィアに告白したあの夜に決めている。


 ……恥ずかしいのは、変わらないが。


 簡単な食事を済ませた後、コーヒーを淹れて、俺達は焚火を囲んで話し込んだ。

 長い事、アンデッド騒動で慌ただしかったから、敵地の夜だと言うのに、心が軽くなる夜だった。




 ※ ※ ※




─── オニイチャ、なにか、くる


 朝、野営から出発して、一、二時間の事だった。

 樹海に真っ直ぐ続く道の先に、姿は見えないものの、何かが揺らめいている。


「─── 魔力が嫌に高いな……。とうとう、直接送り込んで来たか?」


「敵意は感じません……。でも、魔族の者である事は確かなようですね、契約済っぽいです」


 夜切を抜くでもなく、ただ闘気と魔力だけは、全身に巡らせておく。

 両隣の女神達からは、殺気をまとう神気が漲っている。


 やがて道の先の陽炎のようなものは、一台の黒塗りの馬車に姿を変えて、物音ひとつ立てずに近づいて来た。

 馬の蹄も、車輪の踏み締める音もせず、速度と馬の足並みも合っていない。


 ……ゴーストの類いか?


 そう思っている内に、馬車は俺達の前で停まり、中からひとりの男が姿を現した。

 執事服に身を包んだ、白髪に口髭を蓄えた、初老の男だった。

 腰には細身の剣が下げられているが、殺意のようなものは、一切感じられない。


 男は血の気のない顔に、微笑みを浮かべ、うやうやしく礼をとった。



─── と、お見受けいたします



 おっとりと人語を喋った。

 アンデッドの類ではないようだが、いや、何処か南部州知事と似た雰囲気を持っていた。


「……そうだが、何か用か?」


「失礼いたしました、私はこの樹海を治める魔公将がおひとり、パルスル様の家令。ブラムと申します。我が主人が是非、お会いしたいと……

─── 御三方をお迎えに上がりました」


 罠……ではないのか?

 今までのアンデッドに比べれば、このブラムという男は、別格の存在だと分かる。


「……それが罠だと考え、こちらが貴方のお申し出をお断りしたなら、どうなさるおつもりですか?」


 殺意を隠さないまま、ソフィアはそう尋ねた。

 ブラムは表情を一切曇らせずに、軽く一礼をとる。


「そうお疑いになられるのも、仕方がない事と、存じております。

……しかし、パルスル様は、皆様とお話しがしたいとの事です。

こちらの迎えをお断りなされた所で、主人様のお考えは、お変わりになられないとも存じております。

『無益な戦いと時間の浪費は罪だ』と言うのが、あのお方の理念で御座いますので……」


「……無益な戦いを好まぬなら、何故、北部首都を襲った……?」


 殺気を向けて尋ねてみるも、ブラムは身動ぎひとつせずに、言葉を返した。


「そのお話も込みでの、主人様のご招待に御座います」


 そう言って、再び礼をとる。


─── オニイチャ、馬車にしかけは、ない


 ティフォが念話でそう囁いた。

 どうせ、このまま乗り込むのだから、早いか遅いかの違いだけだ。

 それに罠を仕掛けるのなら、いつだって出来たはずだ。

 これが罠だとしても、首都を陥落させた智謀にしては、詰めが甘過ぎる。


 ここは真正面から、立ちはだかってやろうじゃないか。


「…………分かった。その誘いに乗るとしよう」


 ブラムが礼をとると、いつの間か馬車の向きは、俺達の向かっていた先へと変わっていた。

 促されるまま、馬車に乗り込むと、僅かな揺れが最初に起きただけで、景色は足早に無音で過ぎ去って行った。

 女神達の神気は、依然高いままだったが、殺気は抑えられている。

 

 チラリと小窓から、ブラムと馬の様子を伺って見ても、ブラムはただ座っているだけ、馬は相変わらず並足の動作を繰り返しているだけだ。

 しかし、馬車の速度は、飛翔魔術並みの速さで樹海を突き進んでいた。


─── そうして、ただの溶岩の巨大な岩の前で、馬車は停まった


 するりとブラムが馬車を降り、俺達を降りるように促す。


「到着いたしました。お加減はいかがでしょうか? 旅のお疲れもございましょう。

まずはご休憩になさいますか?」


「いや、いい。このまま案内してくれ」


「畏まりました……。暗い場所もございます、お足元にはご注意ください」


 ブラムはそう言って歩き出し、岩山の一部に手を触れた。

 琴のような澄んだ音が微かにして、緑色の光を放ち、大きく堅牢そうな木製の扉が姿を現わす。



─── ギ、キイイィィ…………



 それまで馬車の無音に慣れていたせいか、扉の開く軋みが嫌に耳についた。

 ……中は薄暗く、点々と蝋燭の火が照らす、螺旋状の廊下が、地下へと続いているのが見える。


「それでは、ご案内いたします。パルスル様は、この最下の研究室にて、お待ちしております。少しばかり歩きますが、ご容赦を……」


 そう言って彼は先に、ゆっくりと進んでいった。

 螺旋の廊下は、その壁側に延々と本棚が続き、合間には標本や実験器具などが、所狭しと納められている。

 時折、ギョッとするような剥製なんかもあったが、ブラムは尋ねずとも、簡単な説明をしては先へと先導して行った。


 その内、話す事も無くなり、無言のまましばらく下り続けて行くと、最下層の大きな空間に辿り着いた。

 そこは昼のように明るく、いくつもの魔道具が天井から白い光を放ち、影のない世界が広がっている。

 磨かれた暗い灰色の石床は、水を撒いたような光沢を放っていて、鉄靴を踏み締める度に、高い音が空間に反響する。


 と、奥の方で物書きをしていた人影が、こちらに気がついて立ち上がった。



「…………やあ、ようこそおいで下さいました」



 その風貌を見て、一瞬どきりとした。

 縮れた黒髪が片目を覆い隠し、もう片方の優しげな瞳は真紅。

 頭の左右には紫水晶のような澄んだ角が、くるりと小さく生えている。

 身長は同じ位だろうか、その身と細く長い手足を、清潔そうな綿の作業服らしきもので包んでいた。


 ……何処か俺に似ているような、何処かで見た事があるような、何とも言えない印象を受ける。



「私は魔公将パルスルと申します。ここで長い事、個人的な研究を続けている、魔族のひとりです。

ずっと貴方をお待ちしておりました……」



 柔らかな声、流暢りゅうちょうな話口調。

 その優しげな雰囲気の男は、微笑みを浮かべて俺を見つめると、少しだけ声のトーンを落として呟いた。



「─── 、アルフォンス・ゴールマイン殿」

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