第一話 学園長の頼み




「フッ! ハッ! せぇあッ!」


 山中に空気が裂かれる音が響き渡る。右袈裟、左薙ぎ、また右袈裟。続いて突きを繰り出して体重移動させた後、フェイントを織り交ぜて相手の態勢を崩すように刀を振るう。


「……はぁあああああ」


 一度、腰の左側に携えた鞘に刀身を納め、深く……長く……息を吐き続け、八割ほど吐いたところで、


「シッ!」


 居合の要領で鞘から刀を勢いよく鞘走らせた。剣風が周囲に巻き起こり、やがて静かに止んだ。


 チンッ! と音を鳴らして納刀すると、前方五メートル程の場所にある大木が真一文字に両断。木の繊維と繊維が軋むような音を立てながら地面に倒れこんだ。


「ふぅ……今日の鍛錬終了っと」


 宗士郎はその場を後にし帰路についた。


 幼い頃から変わらない裏山。道中を闘氣法で強化した足で駆け抜け家に戻るとキッチンから芳しい香りが鼻をくすぐった。香りと共に聴こえてくる鼻歌から察するに妹が朝食を作ってくれているのだろう。


 宗士郎は弾むような足取りでキッチンへと向かった。そこにはエプロン姿に身を包み、朝食の支度をしている柚子葉の姿があった。


「ん〜ふふ♪」

「おはよう、柚子葉。 毎朝ありがとな」


 宗士郎は調理の邪魔にならないように、柚子葉の横に立ってから話しかけた。


「おはよう、兄さん! 朝ごはんもう少しだから座って待ってて〜」

「そうか? いつもしてもらってるから、たまには手伝おうかと思ったんだけどな」


 口ではそう言いつつも流れるように居間のテーブルについた。毎度同じような事を聞いている気もするが、宗士郎はさして気にする事もなく、妹の話に耳を傾ける。


「手伝うって言っても野菜を切るだけじゃない。もう終わってるし、楽しくてやってるんだから邪魔しないでよ」

「わかった、わかった。柚子葉に任せるよ」


 苦笑しながら宗士郎は柚子葉を横目に見ると、成長の軌跡を脳裏に思い浮かべた。当時七歳だった柚子葉は今ではスクスクと成長したが身体はあまり伸びず、それと反比例するかのように胸が大きく成長した。ちまたで聞くロリな巨乳さんなるやつだ。


 だがそれでも、妹は兄の贔屓目から見ても良い女だった。綺麗な髪は肩から少し下に長く、容姿も可愛い。同年代の中では決して埋もれる事のない自慢の妹だ。


 あんな事があったというのに、曲がりに曲がった性格にならなくて良かったと宗士郎は心の底から安堵した。


 大地震が起こり、魔物と戦い、母親を亡くし、神様に出会い……そんな様々な事が一日に全て起こった日から、既に十年の月日が経つ。宗士郎、柚子葉はそれぞれ十七歳、十六歳となっていた。


「もう、十年過ぎたのか……」


 地震での被害こそ甚大だったが、二年ほど経った頃、異能に目覚めた子供達の為の学び舎、異能力開発の名の下に、政府が翠玲すいれい学園を設立。学園設立と同時進行していた街の復興もさらに二年経った頃にようやく以前の街並みが戻った。


 中高エスカレーター式であり、クラスメイトは数年もすれば知り合いしかいなくなる。異能に目覚めていない子供もその学校に在籍しており、異能に目覚めた宗士郎達も二人揃って翠玲学園に在籍している。


「兄さん、朝ごはんができたよー」

「ああ」


 どうやら朝食ができたらしい。宗士郎は思考を中断し、柚子葉がキッチンからテーブルへと運んできた朝食の品々に視線を移す。


 今日の朝食は、ご飯と味噌汁、鮭の塩焼きにほうれん草のお浸しに鰹節をかけたもの、そして納豆だ。基本的健康メニューである。


「「いただきます」」


 まずは味噌汁をすすった。毎度出汁から取るだけの事はあって、妹の作った味噌汁はそこらの物より断然美味かった。そのお礼といってはなんだったが、気になりそうな話題を振る事にした。


「そういえば宗吉さんから聞いたんだが、今日転入生が来るらしいぞ」


 宗吉むねよしさんとは、宗士郎と柚子葉の一つ年上の幼馴染、二条院にじょういん かえでの父親のことで翠玲学園の学園長をしている人の事だ。


 過去に訳あって個人的にも仲が良く、今回の事もこっそり教えてくれたというわけだ。


「本当に! 男の子? 女の子? 同じ学年なのかな!」

「さぁ? 女の子らしいけど、柚子葉と同じ学年かまでは教えてくれなかったな〜」


 鮭をおかずに、ご飯を咀嚼してから詳細を教える。といっても詳細という程の事を宗士郎は教えてもらってないが、頼まれた事があった。


「今日、学園に行ったら宗吉さんに転入生の資料をもらう事になってる。なんでも宗吉さんが〝学園の男の子が迎えに行くから〟って言ったらしくてな……俺がバイクで学園に行った後、迎えに行く事になりそうなんだ」

「へぇ〜そうなんだ…じゃあ学園まで乗っけてってよ、お兄ちゃん」


 宗士郎がバイクで登校することを知ると、柚子葉は二人乗りを提案する。家から学校まで徒歩三十分くらいはかかるのだが、緊急時以外は大抵歩いて登校している。


 そして、柚子葉が甘える時は〝兄さん〟から〝お兄ちゃん〟へと呼び方が変わる。楽に学園行きたいと思った柚子葉が上目遣いで、宗士郎を見てくるのだ。こうなると妹を溺愛している宗士郎は断れない。


「わ、わかった……」


 昔は泣き虫だったのに強かな妹に育ったものだ、と宗士郎は嘆息する。甘える時は全力で甘える柚子葉だった。そして、話終わる頃には朝食は食べ終えており、遅刻する前に家を出ることにした。





 家を出て、十五分程度で学園に着いた宗士郎達は駐車場にバイクを止めた。柚子葉の教室は一階なので、教室前で別れて、宗士郎は教室に向かった。


 教室に向かう途中、宗士郎は悶々としていた。理由はそう柚子葉の胸だった。


 バイクに乗るので宗士郎の腰にしがみつくのは仕方ないのだが、バイクが揺れる度に柚子葉が「きゃっ」と強く引っついてくるのだ。


 その度に背中で柚子葉の胸がマシュマロのように潰れる。


 前に一緒に乗ったのが一年前。その時はまだ控えめな胸だった為、余計に意識してしまう。一年でこうも成長するものなのか? と宗士郎は感触を思い出しつつも頭を抱えて歩く。


 ぽわぽわと一度想像してしまえば、


「相手は妹……相手は妹……相手は妹ォッ! 大切な妹だぞ!? 煩悩滅却、煩悩滅却、煩悩滅却!」


 それを止めるべくガンガンッ! と頭を壁に打ち付けて、なんとか平静を保つ。額からぴゅーっと血が吹き出ているが、些細なことだ。


「……な、何してるの? 士郎?」

「え゛!?」


 側から見ればやばい奴。そんな宗士郎を後ろから控えめに肩を叩いた人物が一人。宗士郎は残像が見えるんじゃないかというくらいに、素早く後ろを振り向いた。


「おはよ、士郎。 朝から何やってるのよ」

「な、なんだ……楓さんか。驚かさないでよ」


 血が吹き出している宗士郎に臆せず声をかけてきたのは幼馴染、二条院にじょういん かえでだ。宗士郎のように十年前のあの日に異能に目覚めた人で、この学園の学園長である宗吉の一人娘かつ二条院財閥御令嬢様で学園後期課程の三年生に当たる。


 歳は十八歳。出るとこは出て、締まる所は締まる。有り体に言えばグラマー系美少女。柚子葉が『可愛い妹』なら楓は『お姉様』と表す方が正しいだろう。


 背丈は宗士郎の頭一個分小さく、少々荒っぽくサッパリとした性格で昔から付き合い故に約して〝士郎〟と呼ばれている。


 ちなみに〝後期課程〟とは学園高等部の事だ。中高エスカレーター式の翠玲学園は中等部三年間を『前期課程』、高等部三年間を『後期課程』と定めているのだ。


「…………」

「なによ? 見るなら顔じゃなくて胸を見なさい」


 と、宗士郎が楓を凝視していると怪訝に思ったのか、腕を組んで堂々と変な事を言い出した。


「いや、楓さんも柚子葉に負けず劣らず良いスタイルだなあと思って」


 いや何言ってるの楓さん、と言いたくなるのをグッと堪え、先程思っていた事を素直に口にしてみれば、


「そこまで言うなら、そろそろ私と結婚したらどうなの? 私、士郎のことが好きだからいつでもゴールイン可能なのに」

「ちょっ!? そんな堂々と!」


 楓がそう口にすると、周囲の男女が妄想と怨念の混じった言葉を口々に言い触らす。しかも聞こえるように言っているのか、少々陰湿だ。


「? 好きなのは本当だから別に構わないじゃない。それで結婚はいつにするっ?」

「そ、その話はまた今度ね……」


 楓とは幼馴染だ。好きと言われて悪い気はしないし、むしろ嬉しいとさえ宗士郎は感じる。楓の父親である宗吉にも「もう、君達結婚したらどうだね?」と軽いジャブを織り混ぜられる程、笑いながら言われるくらいには仲が良いつもりだ。


 道場主の息子と財閥の娘。普通なら重なる事ない者同士であるのに仲が良いのには理由がある。


 自分を鍛えたいと決意固く言った小学生の楓が道場に乗り込んできたことがあった。


 その際女の子であるにも関わらず、門下生達をなぎ倒し、自信過剰になっていた楓を宗士郎が負かした事で何故か宗士郎の事が惚れられ、暇さえあれば道場に遊びにきては一緒に修行に勤しむようになったのだ。


 それ以来、家族ぐるみの付き合いをするようになり、一緒に外出したり食事を共にするようになった。当然の事だが、柚子葉とも仲が良い。


 そしてなぜ結婚できるのかといえば、十年前の地震で世界人口が減ってから少し法律が変わったからだ。


 日本の人口を増やす為の苦肉の策なのか、政府は一夫多妻制を取り入れた。結婚が可能になるのは男性が十八歳から十六歳、女性は十六歳から十四歳に引き下げられた。


 今現在の年齢は宗士郎が十七歳、楓は十八歳。結婚することは充分に可能で、少なからず惹かれていた宗士郎も満更ではなかった。


 しかし、アリスティアに教えられた未曾有の危機がいつ訪れるかもわからないというのに、呑気に結婚などしている余裕は宗士郎にはなかった。


「そもそも学年が違うのになんで俺達二年生の階にいるの?」

「登校してすぐに大好きな士郎の顔を見たかっただけよ」

「じょっ、冗談はやめてよ!?」

「冗談じゃないのは士郎が一番知ってるはずだけど?」


 ドストレート過ぎだ。幼い頃に惚れられてから何度も耳にした事だが、思いがけず心臓が止まりそうになった宗士郎は激しく脈動する胸を押さえながら背中を向けた。


「もう行くから! あ、そうだ。また放課後にでも家においでよ。 久しぶりに夕食でも一緒にどう?」

「士郎が作るわけでもないくせに。でも、そうね……久しぶりにご相伴にあずかるわ」

「ぐっ……」


 痛い所を突かれた。だが、楓が快諾してくれたのはちょっぴり嬉しかった宗士郎だった。


「じゃあ、また放課後にね」

「また放課後に」


 宗士郎と楓はそれぞれの教室に向かう。





 宗士郎が自分の教室に辿り着いてドアを開ける。転入生を迎えに行く用事があったので、教室の人はまばらだ。そのまま自分の席につこうすると、


「よっ、宗士郎! おはよう」

「響か、おはよう」


 来るのを予期していたようにもう一人の幼馴染が声をかけてきた。


 この目前の爽やかな奴の名前は沢渡さわたり ひびき。イケメンなのだが、ゲームやアニメが好きでたまらない、生粋のオタクなのだ。普段からモノの考え方がゲーム脳な程、サブカルチャーにどっぷり浸かっている。響も異能に目覚めているのだが、能力が能力だけに普段は使う機会に乏しい。


 背が高く顔もよいので女子にモテるが、響がオタクだと知った途端に接し方を変える。やがて女子が響のオタトークにうんざりし、響から次第に距離をとり始める事が大半だ。


 その所為で響がこれまで付き合った女子は一人もいない。容姿に惹かれるが趣味で逃げられる。なんて気の毒な奴なんだろうと宗士郎は幼馴染ながらに思った。


「学園に来たばかりだけど、そろそろ呼び出しがあるはずだ。転入生を迎えに行かないといけない」

「なぬ!? 転入生が来るのか! 女子か!? 女子なのか!? それともやっぱり女子なのか?」


 宗士郎が転入生の……それも女子の話題を口にすると、やけに食い気味に響が聞いてくる。


「そこまで女子であって欲しいのか!? 願望強いな! 学園長の所為で俺が迎えに行く事になったんだ!」

「へぇ〜大変だな、学園長の頼み事は。やっぱりお気に入りは違うな」

「お前なっ、そんなんじゃ……!」


 響に皮肉を言われてしまう。少しイラッときたので言い返そうとすると、狙い澄ましたかの様に教室のスピーカーから機械音が鳴り、


『え〜二年の鳴神 宗士郎君、二年の鳴神 宗士郎君! 至急、学園長室まで来るように! 繰り返す、二年の――』


 突然の放送で呼び出されてしまった。周りからの視線が集まってくる。既に慣れた事とはいえ、奇異の視線はなく、むしろ応援する声が聞こえてくるのは嫌いじゃなかった。宗士郎は学園長室に向かう準備を始める。


「ほら、お仕事だぞ!」

「……噂をすればなんとやら、だな。ちょっと、行ってくる」

「ああ、後で転入生紹介してくれ! ぜひお近づきにないたいから!」

「か、考えておく。お前がご所望の女の子だからな」


 こんなに食い下がってる響を見て可哀想に思った宗士郎は性別だけは教えてやる事にした。どうせ後々、噂や連れてきた時に追々バレるのだ。これくらいの情報を与えてやって然るべきだ。


 響はイケメンだが、オタクであるがゆえに女の子に言い寄られては、スッと身を躱される。その反動か過剰に女の子に反応してしまう。話しかけられてから今の今までの一連の言動は仕方ない事なのかもしれない。


「絶対だぞー!」


 宗士郎は追求の声を逃れるべく、足早に教室を出て行った。





 慣れた廊下の道をなぞる様に歩いて行けば、学園長室まですぐに着いた。宗士郎はドア前に立つとノックをして声をかける。


「学園長。鳴神 宗士郎です。失礼します」

「うん、入ってきて構わないよ」


 ドア向こうから学園長の声が聞こえたので、ドアノブを回し中に入る。


「やあ宗士郎君、おはよう。朝から済まないね……ほら、この紅茶を飲みなさい……後、私の事は宗吉さんか、お義父さんと呼びなさいといつも言ってるじゃないか」

「おはようございます。学園では公私混同はやめてください、学園長。プライベートでは宗吉さんと呼んでるんだから良いじゃないですか」


 宗吉の机の前に立つとニコニコと挨拶をしてくれる。歳は離れているが、割とフランクだったりする。小粋なジョーク(本人的にはマジ)を軽口程度に会話に混ぜてくらいには関係は良い。


 少し喉が渇いていた宗士郎は淹れてくれた紅茶を口に含み、


「それで早速本題なんだが…………宗士郎君、いつ楓と結婚してくれるんだね?」

「ブゥ〜〜〜〜〜〜ッ!?」


 真面目な、至って真剣な声音で話しかけてきた宗吉の話題が耳に入った瞬間、思わず宗士郎は紅茶を宗吉に向けて吐き出してしまった。


 転入生の話かと思ってたが故に、『娘との結婚』という変則ブローに宗士郎は耐えきれなかった。あの娘にしてこの親ありといった所だ。


「宗吉さん!? 転入生の話じゃないんですか!?」

「いやいや、私は本気だよ? 〝本気〟と書いてマジだよ。後、学園ではなのだろう?」

「うっ、じゃあ学園長! 俺を呼んだ理由の方をそろそろお願いします」


 宗吉が自分にかかった紅茶をハンカチで拭っている。公私混同はダメだと言っていた矢先、宗士郎は学園長を「宗吉さん」と呼んでしまった。してやられた気分になるが、転入生の話の方を優先する。


「本当に本題に入るのだが、この資料に目を通してくれ。転入生の情報が書いてある」


 宗士郎は渡された資料に少しずつ目を通す。


「転入生の名前は桜庭さくらば みなも。君と同じ十七歳の女の子。親の転勤によりウチに転入してくる事になった。武術などの心得はないが、君と同じように、異能に目覚めている。その彼女を迎えに行ってあげてほしい」


「なぜ、俺なんです……?」

「近頃、犯罪に異能力を悪用しようと考える犯罪組織が出没するようになってね。彼女の異能が喉から手が出る程欲しいみたいだ。どこから情報を仕入れたのかは知らないけどね」


 資料を読み進めて行くうちに、なんとなく狙われる理由に察しがついた。彼女は絶対に破れないとされる『盾』の異能を持っているのだ、犯罪をする上で彼女を脅し、その力を行使させれば安全性がグンと増すのがわかる。


 資料での異能の使用経歴を見るに、宗士郎の異能でも斬れるかどうかわからないのだ。それは犯罪組織の連中も欲しくはなるだろう。


「下種共ですね。相対した時に躊躇いが一切無くなりました」

「そう。だからこそ、君に白羽の矢が立った。情けない事だけど、私は君以外に適任はいないと思ってるよ。」


 宗吉が眼力を強めてくる。精神的にもかなり鍛えている宗士郎でも、少し竦むすくほどの圧が襲ってくる。その圧力に屈せず、宗士郎は至極当然な疑問をぶつける事にした。


「守るだけなら、父さんでもいいのでは?」

「そうなんだけどね、守ってくれるなら同年代の王子様の方がいいだろうし、何より君の異能が彼女を守るのに最適かな……と思うわけだよ。君が〝矛〟で、彼女が〝盾〟。お似合いじゃないかな?」


 相変わらずジョークを織り交ぜながら空気を和らげてくる。その上で宗士郎が適任だとわからせてくるから余計に拒めない。


 宗士郎の異能が犯罪組織にも引けを取らないことを知っているからこそ、宗吉は宗士郎を選んだ。あの日の後悔を糧として、宗士郎は蒼仁に鍛えられ、体術も剣術も既に達人の域まで達している。


「はぁ、わかりましたよ。任せてください」

「そう言ってくれると思ったよ。それと彼女に危害を加える気なら……斬って構わないからね」

「……了解しました」


 〝斬る〟という事はすなわち人を殺すことだ。


 宗士郎は国に刀を帯刀する許可も得ている。十年前の地震以来、空間が歪んだ事の影響で異界の生物――『魔物』が出現するようになってからは人が無差別に殺されている。


 それらを防ぐ為に学園長が便宜を図り政府に魔物を狩る許可を取ってくれたのだ。異能を狙う犯罪組織も増えてきているので、犯罪者を殺す許可も得ている。


 犯罪者を殺す時は、宗吉さんの許可が事前に必要だが今回はそのケースだ。だが、極力殺さないようにしなければならない。


「そうそう、彼女に君の写真を渡しているから現地に着いたら挨拶してあげてね」

「顔がわからないといけないとはいえ、個人情報なんですから勝手に写真を渡さないでくださいよ……」

「すまないね」


 手を合わせて頭を下げる宗吉。写真を勝手に渡されたことを不満に思うが、仕方がない事だと理解した。


「じゃあ行ってきます、学園長。保護したら連絡を入れます」

「くれぐれも頼んだよー!」


 宗士郎は学園長に背を向け、部屋から出た。そして桜庭 みなもを迎えに行くべく、現地にバイクで向かったのだった。




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