第87話 敵か味方か、はたまた……
あの後、何とか誤解を解くように努めたが、少しばかり
全て
ただ、それを言えば自分が転びそうにならなければ受け止められることもなかったわけで、考えれば考えるほど複雑な気持ちになる。
しかし、
さらに言えば、彼女の雇い主は白銀家当主。白銀家の秘密……つまり、
麗子と親しくしているようには見えるが、その任務を遂行する上で
先程の行動がお茶目なんかではなくて、二人を引き離す作戦の前座だったのだとすれば、警戒しない訳には行かないだろう。
もちろん、単純なおふざけだったとしても、瑛斗からすればとんだ迷惑だが。
「白銀麗子、あなたさっきからどうして不貞腐れてるのよ」
「瑛斗さんが
「抱い……?!」
「勘違いが生まれるからやめて」
慌ててアワアワしている彼女に詰め寄ると、耳に口を寄せて「僕は何もしてない、何もしてないよ」と暗示をかけておいた。
何だか顔を真っ赤にしてぐったりしてしまっていたが、きっと刷り込みに成功した証拠に違いない。そう思うことにする。
「……まあいいです。瑛斗さんが他の誰に手を出そうと、私の気持ちが変わるわけではないので」
「手、出してないんだけどなぁ……」
「はいはい、分かりました。そんなことより、少し早いですが昼食にしましょうか」
そんなことと一言でまとめられてしまうのは悔しいが、気にしないでくれると言うのならその方がありがたい。
瑛斗もこれ以上押し問答を続けても、むしろ押し返されて降参することになりかねない気がするから。
「
「もちろんでございます」
それから十数秒後。コック帽を被った人物が同じ扉から姿を現した。
「シェフでございます」
丁寧にお辞儀をし、ズレたコック帽を真っ直ぐに直すシェフ。
その角度も声も、見覚えがあるというか馴染みがあるというか。
ついさっきまで目の前にいたような気がするが、気の所為だろうか。
「……
「シェフです」
「シェフの
「シェフの
「やっぱり」
あまりに真顔で出てくるから、彼女が双子か何かだった可能性まで考えを巡らせてしまった。
しかし、考えてみれば妥当な結果のように思う。
料理だってチャチャッとやってしまうのだろう。そんなことを思っていると、扉の奥からもうひとつコック帽が出てきた。
そのコック帽は何やら車輪のついた機械の上に乗っている。アームやタッチパネルが付いているようだが……。
「こちら、コックアシスタントです」
「アシスタント?」
「白銀グループが開発した調理ロボでして、命令すれば何でも作ってくれます」
「え、それはもうコックなのでは?」
「いえ、アシスタントです」
「……」
「アシスタントです」
いよいよ、何も言い返していないのに圧をかけてきた。余程コックという役割を気に入っているのだろうか。
しかし、一連の流れで分かったことがある。
「……お茶目だ」
瑛斗が巻き込まれた抱きつき事件については、策略でも何でもない人間らしさのひとつであったということだ。
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