第84話 閉鎖的バーゲンセール

 店員さんは目を付けられているようだが、それなら他の人が聞いてみてはどうか。

 そう考えた一行は、試しにソフトクリームの機械を持って麗子れいこに行ってもらうことにした。

 地べたで駄々をこねる良い歳の大人では無理だったが、一方彼女は女子高生。おねだりがまだ許される年齢だろう。

 サービスエリアのスタッフさんに、スイーツ店の店長に、他の店の店主に。麗子は色々と聞き回ってくれた。

 しかし、結果は不発。初めは見知らぬお嬢ちゃんだと歓迎の素振りを見せてくれたが、例の機械を見ると皆目の色を変えたらしい。

 きっと、あの店員さんの遣いだと見抜かれたのだろう。ソフトクリームの機械なんて、一般人が持ち運んでいるものでは無いから。


「ダメです、工具すら貸して貰えません」

「よっぽど悪い目で見られてるんですね」

「こういう場所は、秩序を乱す者には閉鎖的な態度を取りますからね。無理もありません」


 麗子でダメなら、瑛斗えいとが行っても同じだろう。これ以上は何も出来そうにないし、諦める他ない。

 肩を落としてため息を零し、どう店員さんを説得しようかと考え始めたその時。

 もうお手上げだとばかりに空を見上げている紅葉くれはの姿が視界に写った。

 同じ女子高生だとしても、麗子と紅葉とでは随分と印象が違う。

 それはきっと、武器として扱うのなら銃と剣ほどの違いで、つまりは通用する分野が全く変わってくるということ。

 他にどうしようもない行き止まりに立たされた今、やれるだけのことをやるというのはある意味投げやりで、ある意味一番賢いやり方なのかもしれない。


「そういうわけで、紅葉も行ってきてくれる?」

「どういう訳よ。やけに黙ってると思ったら、何か嫌なこと考えてたのね」

「以心伝心だね」

「察しただけよ。ていうか、白銀しろかね麗子れいこで無理だったのに、どうして私にまでやらせるのよ」

「小さい子には弱いかもしれない」

「あんたを叩いて縮めたろか?」


 拳を握りしめて抵抗する彼女だが、既にやらされた麗子と、縋れるなら何者にでも縋りたい店員さんからの圧力で少しずつ押し返されていく。

 ついには拳を開き、お手上げモード。最後のひと押しに瑛斗から再びお願いすると、「貸しひとつにしとくから」と現金なことを言って渋々建物の中へ向かってくれた。

 まあ、数分後には項垂れて戻ってきたのだけれど。


「まあ、無理だよね」

「分かってたなら行かせないでもらえる? またかまたかって白い目で見られたんだから」

「謝るから許してよ」

「謝るって言いながら直立なのはどうしてかしら」

「地べたに這いつくばればいい?」

「第二の店員さんになるのは勘弁して」


 出会ったばかりの他人ならともかく、友達が周囲から冷ややかな目を向けられるのは勘弁ならないらしい。

 紅葉はため息をひとつ零して追求を取りやめると、これ以上は何もするまいと腕を組んで見せた。

 それを見て麗子も真似をした。店員さんも同じようにしようとしたが、お前は元凶だろうと二人に睨まれてやっぱりやめる。

 そんな無言の暴力で反省させた後、麗子がいいことを思いついたとばかりに手をポンと叩いた。


102トウフに頼みましょう!」

102トウフさんに?」

「彼女なら大抵のことは出来ますから。何とかしてくれるかもしれません」

「確かにそうね」

「でも、さすがに工具なんて持ってないんじゃないかな。今回はただの旅行だし……」


 いくら何でも素手で機械をいじれる人間なんて居ないし、バールのようなものを持ち運んでいたら職質される時代だ。

 期待は出来ないだろうと思っていると、背後から「お呼びでしょうか」と102トウフさんの声が聞こえてくる。


102トウフさん、どうしてここに?」

「名前を呼ばれた気配がしたので」

「気配って……獣じゃあるまいし」

「メイドたちの中にはそのような能力が秀でた者がいるのです。102トウフは特に優秀で、檻の中のライオンから餌を奪い取る訓練をクリアしています」

「……獣以上ってことね」


 百獣の王からご飯を取るなんて、並の人間で出来ることでは無い。

 やはり、102トウフさんはただのメイドさんでは無いし、ただの女性でもないということがよく分かった。

 なぜ彼女がそんな訓練を受けることになったのかは、想像するだけで嫌な予感がするので考えないことにしておこうと思う。

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