第83話 うずまきに呑まれるように
お菓子やら飲み物やらをたんまりと買い込んだ三人は、御手洗を済ませてから車へ戻る道中で一件の屋台を見つけた。
季節に似合わずおでんでも売ってるのかと思って覗いてみると、中では店員さんらしき女性が機械をガタガタといじっている。
彼女は
「あの、どうかしたんですか?」
「あ、いえ、なんでもないです!」
「何でもないって雰囲気じゃなかったわよね」
「何も無いのに機械を揺らしたりしていたら、不審者かと疑いますからね」
「ちなみに、ここは何の屋台ですか?
「ああ、つい先日まで書いてあったんです。ちょっとした事故で消えてしまって……」
文字が消えるなんてどんな事故だろうと三人が顔を見合せていると、ついに諦めたのか女性は機械から手を離して屋台の机に突っ伏してしまった。
「聞いて貰えます? 私の苦労話」
「そういう趣味はないわね」
「これから用事があるので」
「聞いてくれたらサービスしますよ」
「貰えるものは貰っておきましょう」
「たまには人助けもいいわよね」
「……すごい変わり身」
瑛斗も一歩引いてしまうほどの手のひら返しだったが、サービス目的でも店員さんとしては構わないらしい。
彼女は先程からいじっていた機械の方を見ながらため息を零すと、今ここに至る経緯を話し始めた。
彼女は色々なサービスエリアを点々とするソフトクリーム販売の屋台をしているらしい。
この機械もソフトクリームを作るためのものなのだが、今はめっきり動かないんだそう。
今朝は運良く動いてくれていたようなのだが、一週間ほど前から使い続けると爆発して中身を撒き散らすようになり―――――――。
「さっきも爆発しかけて、休めていたところだったんです」
「もしかして、暖簾が真っ白な理由って……」
「ソフトクリームで汚れすぎたからです。洗っても元に戻らなくって」
「なるほど、そういうことだったのですね」
自分や屋台だけならまだしも、お客さんの服を汚すわけにはいかない。
そのため細心の注意を払いながら使っていたが、瑛斗たちが来たのを見て動かそうとしたものの、何故か動いてくれないとのこと。
このままでは今日の売上が飛ぶどころか、材料費も交通費もパーになる。
しかし、機械のことはさっぱりな自分ではどうしようもないと、もう諦めの気持ちが芽生えてきているらしい。
「もう、どうしたらいいんでしょう……」
少し話を聞くだけのつもりだったが、ここまで落ち込む姿を見せられれば、助けたいという気持ちが芽生えてくる。
まあ、あとの二人に関しては、小声で「じゃあ、サービスなんて貰えないんじゃない?」「詐欺にかけられましたね」と囁きあっているが。
「誰か、このサービスエリアに直せそうな人は居ないんですか?」
「聞いてみたんですけど、余所者が商売をするなら助けられないって言われて……」
「許可取ってないんですか」
「だって申し込みやら選定やら、こんな小さな屋台が通らないって確信がありますから!」
「変なところで胸を張るのね」
「そもそも、勝手に店を出したら違法行為になりますよ。大人しく引いた方がいいですね」
現実的な言葉の数々に、店員さんの心は滅多打ち。返す言葉すら失ってしまった結果、彼女はついに地べたに倒れ込んで駄々をこね始めた。
大人をここまで追い込んでしまった罪悪感なのか、それとも周囲の視線が気になったのか。
紅葉たちも「わかった、私たちも考えてあげるわよ」と渋々手伝いを名乗り出るのであった。
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