第82話 意味付けは環境がする
満員電車ほどぎゅうぎゅうでは無いが、長距離移動で存分に足が伸ばせないのはなかなかに苦しいものだ。
両側からは
運転席の
いくら本人が信頼していようと、
おいそれとくっつかせるには、あまりに不安が多いのではないだろうか。
何なら、勢いのままに契約だのなんだの言ってキスしたことがバレたら、今度こそ本当に刺客を送り込まれてしまう恐れがある。
だからこそ、こういうことは二人きりの時だけにして欲しいのだけれど、言っても聞いてくれないことはわかっているので諦めた。
「
「御手洗ですか?」
「いや、何と言うか……」
二人がいる手前、離れる時間が欲しいとは言えない。なんと言葉を選ぼうか考えていると、彼女はそれを察して「お飲み物ですね」と言ってくれる。
その言葉に頷いて数秒後、サービスエリアがあることを示す看板が見えてきた。
「では、私はここで待っています。お嬢様とご友人様は何か買って来られてはいかがでしょう」
そんな彼女の提案に、紅葉と麗子も納得して車から降りる。
残念ながら一人行動とはなりそうにないが、密閉空間では無いだけで幾分か心が休まる気がした。
「では、飲み物を買いに行きましょうか」
「それがいいわね」
先行する二人を追いかけるように後ろを着いて行き、売店でそれぞれペットボトルを二本ずつカゴに入れる。
もちろん
「他はどうしますか?」
「おやつなんか欲しいわよね」
「いいですね、どれがいいでしょう」
「悩むわね」
「では、ここからここまで全部買いましょう」
「そんな食べられないわよ」
紅葉に常識的な範囲でと言われて、渋々三つほどに絞る麗子。
紅葉の方も三つ選んでカゴに入れ、二人とも瑛斗の方を振り返ってじっと見つめてくる。
「瑛斗さんも選んで下さい」
「いや、僕はいいよ。お土産のためにお金残しておきたいし」
「私が買ってあげますから、お金は気にしないでいいです」
「それはさすがに……」
「こう言ってるんだから甘えておきなさいよ。それとも何、女には払わせられないって?」
「別にそう言う意味じゃないけど」
性別に関係なく、人にお金を払ってもらうことに気が引けているのだが、ここで言い分を通そうとしても向こうは諦めてくれないだろう。
何せ、払うことの押し付け合いではなく、払うことの引き受け合いなのだから。善意なのが尚更難しい。
「……分かった、甘えさせてもらうよ」
「ふふ、それでいいのです」
嬉しそうに微笑む麗子を見ると、これで良かったのだなとホッとする。
けれど、正直なところ同時に心配にもなるのだ。彼女がもしかしたら、自分の存在意義をそこに当て嵌めてしまうのではないかと。
お菓子を買う程度のお金で大袈裟かもしれないが、それを何度も繰り返すことで、彼女にとってお金を持っていること自体が自分のいる意味にしてしまうことが怖い。
「じゃあ、私の分も一緒に……」
「
「どうして私だけなのよ!」
「ふふ、冗談です」
けれど、以前よりかはずっと楽しそうにしている姿を見ると、これ以上止める気にもなれずにただ見守ることにする瑛斗であった。
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