第76話 震えるほどのボルテージ
「ここには……無いですね……」
舞台裏を探す
しかし、どこにも爆弾は見当たらない。予告文の存在を知る大会関係者も手伝ってくれているが、どうやらこの場所に仕掛けられていないようだ。
「そうなると、そろそろ
床についていた手を払っていると、ポケットの中でデバイスが震え始める。
取り出してみると、画面には瑛斗の名前が表示されていた。思った通り、ちょうど電話がかかってきたらしい。
「はい、もしもし。瑛斗さん?」
『…………』
「よく聞こえません。爆弾は……」
『今すぐ舞台に来い』
「あ、あなた瑛斗さんじゃありませんね? 彼のデバイスを使って何をしているのですか!」
『麗子、来たらダメだよ。彼は危険だ、直ぐに逃げて』
『黙ってろ!』
電話の向こうからゴンと鈍い音が聞こえた。瑛斗が漏らす痛いという声も。
何者かが彼を殴ったのだろう。犯人の素性も分からない以上、このまま無視してしまったら命が危ない。
「私だけが安全な場所にいる訳には行きません。今から助けに行きます」
『麗子、来たらダメだって――――――――』
通話を切り、急いで舞台へと向かう。到着した時には舞台上には紅葉、瑛斗、そして彼らを押え付けるゲーム部部長の姿があった。
観客たちは逃げようとしているが、ドアに南京錠を付けられたようで開かないと慌てている。
それを部長は怒鳴り声で黙らせると、会場に設置された椅子に座るよう言った。
「そうだ、それでいい。逆らったらボタンを押すからな。
脅すように見せつけてくるリモコン。あれが爆弾のスイッチだろう。つまり、犯人は他でもない彼だったということになる。
これはなかなか面倒だ。だって、自分をここへ誘った紅葉が大会に来ることになった理由が彼の勧誘なのだから。
「初めから狙いは
「いいや、違う。俺の狙いはお前だ」
「……私? 面識は無いはずです」
「お前とは無い。が、俺の父親はお前の父親と面識がある」
「どういうことですか」
「知らないだろうな、お嬢様は。白銀財閥の傘下にある無数の小さな会社のことなんて」
そう言うと、部長は一度持ち上げた紅葉の頭を舞台に勢いよく叩きつけた。
彼女の顔は苦痛に歪み、瞳は既に潤んでいるが、それでも負けじと抵抗を続けている。
上から押さえつけられて敵うはずがない相手だとしても戦っているのだ。
ならば、その姿を目の奥に焼き付けた白銀財閥の令嬢がしっぽを巻いて逃げる訳には行かない。
「要求はなんですか。お金ですか、私の体ですか。なんでも聞きましょう、二人を離してくれるのなら」
「随分と潔いいな。だが、俺はそんなことを望んじゃいない。俺が願うはただひとつ、世間に公表して欲しいってだけだ」
「公表? 何をですか」
「お前たちが俺の父親の工場を潰したことだよ。この極悪非道なボンボンが!」
確かに白銀財閥の参加には無数の会社と、そこから受注生産する数え切れないほどの大小様々な工場がある。
無論、その全ての経営が上手くいく訳ではなく失敗することもあるが、麗子の父はそれを潰すなどということはしない。
自ら全ての経営状況に目を通し、悪化している場所には視察に行ってアドバイスや資金援助をしているからだ。
それでも無理なら倒産するしかない。そこに関しては経営という意味では仕方の無いことで、恨まれる謂れはない。
……本心ではそう言いたいが、二人の命がかかっている今、下手に出るしか救出を試みるチャンスを作ることは出来ないだろう。
「全て聞き入れましょう。話を聞かせてください」
耐えるのだ、麗子。彼女は自分に言い聞かせるように心の中で呟いて、犯人に歩みよる努力を始めるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます