第61話 お支払いは土下座で
「ふーん、この子が話に聞いてた子ね」
週末、勉強会のために
「
「違うよ……って言うと萌乃花に失礼か。別にそういう気持ちがあって誘ったわけじゃない」
「ほんとかしらね。まあいいわ、上がって」
なんだかやけにツンツンしているなと思いつつ、言われた通り家に上がらせてもらう。
そのまま追いかけるようにして二階にある紅葉の部屋へ入ると、先に到着していた
「あ、瑛斗さん!」
彼女はパッと表情を明るくして駆け寄ってきたが、後ろにいる萌乃花を見ると少し怪訝な顔になってジロジロと観察し始める。
「お話に聞いていた方……ですか?」
「そうだよ。ほら、自己紹介して」
「もっ、もも……ももも……」
「……もも?」
「落ち着いて。麗子は噛んだりしないよ」
「すぅ、はぁ。お、落ち着きました」
「じゃあ、もう一回」
「もも……ももも……」
「それを再リクエストしたわけじゃないよ」
やけに緊張している背中を撫でながら「自己紹介をやり直して」と伝えると、萌乃花はコクリと小さく頷いてから「
少し噛んだようだが、名前が伝わっているので問題ないだろう。
あまりの日本語の下手さに「帰国子女か何かですか?」と別の勘違いは生んでいたけれど。
「言っていた通り、紅葉と麗子には萌乃花に勉強を教えてあげて欲しいんだ」
「あなたの頼みだからOKしたけど、そもそもどうして私たちがそんなことをするのよ」
「放っておけないからさ」
「自分で教えればいいじゃない」
「自分で手に負えないから助けを求めたんだよ」
「……その発言である程度察せたわ」
学年で10番以内に入る頭の良さを誇る二人なら難しい話では無いと思ったが、やはり見ず知らずの人を助けてくれるほどお人好しでは無いらしい。
しかし、ここまで連れてきてしまった以上、何もせずに返すというのも気が引ける。
「この通り。お願いだよ、二人とも」
瑛斗はそう言って床に手と膝をつくと、渋る二人に向かって頭を下げた。
萌乃花が赤点を回避出来て、夏休みに補習地獄に陥らないのなら土下座のひとつくらい安いものだ。
「え、瑛斗さん、頭を上げてください」
「どうしてそこまでするのよ」
「助けを求められたら見捨てられないよ」
「……相変わらずですね」
「……まったくよ」
やれやれとため息を零す二人。どうやら、陽斗の情けないほどの懇願の気持ちは何とか通じてくれたらしい。
彼女たちは仕方ないと言うふうに机の周りに腰を下ろすと、萌乃花へ手招きをして近くへ来るように呼び寄せた。
「よ、よろしくお願いしますぅ……」
「あなたも瑛斗に感謝しなさいよ」
「彼の頼みでなければ、私は絶対にこんなボランティアはしないんですから」
「感謝しますぅ……」
それから文句こそ垂らすことはあれど、二人とも真面目に教えてくれているらしかった。
初めはガチガチに緊張していた萌乃花も、瑛斗より遥かにわかりやすい解説に目を輝かせ、驚くほどのスピードで成長していく。
少し複雑な気持ちがないと言えば嘘になるが、真剣な三人を前にすると自分も勉強が捗ったので良しとしよう。
瑛斗は心の中でそう呟きつつ、一時間半ほどして解き終えた社会の問題集をパタリと閉じた。
それとほぼ同時にペンを置いた萌乃花は、両サイドの二人と共に伸びをして、満足げなため息をひとつ吐き出す。
「進捗はどう?」
「もう課題がひとつ終わっちゃいました! 二人ともすごく教えるのが上手です!」
「それは良かった。その調子で頑張って」
「はい!」
キラキラとした笑顔を見せてくれた彼女は、紅葉に促されて新たな課題へと手を伸ばす。
そんな姿を少し眺めていた瑛斗は、自分ももう少し頑張ろうと勉強を再開するのであった。
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