第55話 化粧は自分を変える魔法
プチプラのお店を散策した
「お客様、気になられますか?」
彼女に気が付いた店員さんが、チャンスとばかりに呼び込み、彼女は
「あの、ここは?」
「こちらは様々なメーカーから集めた試供品をご自由にお使い頂けるコーナーとなっております」
「試供品……」
「試供品にも使用期限というものがあります。ただ、全てを使い切れる訳ではありません」
「それはそうよね」
「はい。ですので、当店では期限の迫った処分すべきものを回収することで、皆様に無料でお試し頂けるのです」
「それはいいシステムだわ」
確かに捨てられるものを拾ってくれる人がいるなら、企業としては処分するための費用が浮くので有難い限りだ。
ここで取り扱っている商品の試供品なら、その上宣伝効果まで付く。いいこと尽くめのウィンウィン関係なのである。
「本日はどのようなものをお求めで?」
「特に決まってないわ。いいものが見つかれば買おうと思っているのだけれど」
「でしたら、私の方でお客様に合いそうなものをピックアップさせていただきます」
「お願いするわ」
店員さんは「かしこまりました」と一礼すると、並んでいる試供品の中からいくつか手に取ってカウンターへと並べる。
「こちらはいかがでしょう」
まず最初に紹介されたのは、真っ赤な口紅。少し色が強すぎるかとも思ったが、試しに塗ってみるとそうでも無い。
というよりかは、紅葉の幼い顔つきとのギャップがあるため、色が綺麗に映えるのだ。
「どうかしら、瑛斗」
「悪くないと思う。少し大人っぽく見えるね」
「ふふ、そうよね」
紅葉自身もお気に召したようで、買う候補として右側に置いておく。
一度口紅を落とし、次は先程とは真逆とも言える明るいピンク色のものを塗った。
さすがにこれは辺になるのではないかと予想していたが、今度のは唇のぷるんとした感触が強調されてとても魅力的に見える。
彼女が本来持っている可愛らしさとも馴染んでいて、どこもおかしいようには見えない。
「いいね、可愛い」
「そうでしょう? これも購入候補ね」
「お気に召されたようで何よりです。次はチークですが、ピンクの口紅に合わせた色を選んで塗らせて頂きますね」
そう言ってサッサッと塗られたのは、赤とピンクの中間のような色合いのもの。
続いて目元にもメイクを施し、「いかがでしょう」と鏡を差し出された瞬間の紅葉は、控えめに言ってすごく綺麗だった。
全体的にピンクっぽい色合いで統一することで、見る人に柔らかい印象を与えるメイクなのだろう。
目元も普段より少し丸くなったように思う。紅葉から感じる棘のようなものが引っこ抜かれた感じだ。だから――――――――――。
「メイクってこんなに変わるものなのね」
「はい! とても魅力的だと思いますよ」
「そうかしら。ねえ、瑛斗はどう思う?」
――――――――だからこそ、迷った。
ただ褒めておけばいいのかもしれない。けれど、紅葉が正直な感想を求めているのなら、その気持ちには応えたい。
「すごく似合ってると思う。けど……」
「……けど?」
ここまでしてくれた店員さんにも、メイクをされてウキウキしている紅葉にも申し訳ないという気持ちはある。
だが、それでも今伝えておきたい。それが瑛斗としての本心だから。
「可愛いとは思う。だけど、やっぱり僕は普段の紅葉が一番好きなのかも」
綺麗事だと思われても仕方が無いけれど、彼女の顔を見る度に心がソワソワしてしまうのだ。自分の知っている紅葉では無いと。
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