第48話 予想外はいつだって突然やってくる
あれからノエルの一件に世間が騒がなくなるまでそう時間は要さなかった。
人々の興味が失われればニュースも扱うことを辞め、アニマル特集なんかを組み始める。そういうものなのだ。
「瑛斗くん、何見てるの?」
デバイスを伏せるようにして机に置きながら振り返ると、そこに立っていたのはノエル。
彼女は少しイタズラな笑みを浮かべつつ、「もしかして、私のステータス見てたり?」と首を傾げてみせる。
「見てないよ」
「照れなくてもいいのに。私のプロフィールは全校生徒の97%が閲覧済みだからね」
「残りの3%は?」
「……ほら、アイドルって敵も作りやすいから」
苦笑いをする彼女にこれ以上踏み込むべきでは無いと察して、プロフィールの話はそれとなく終わらせておく。
それよりも今はどうして彼女がここにいるのかについて聞くべきだろう。
「ノエルは何かこのクラスに用事?」
「まあ、そんなところ」
「
「学園長からお呼び出し。二人ともテレビに出てから、色々お誘いが来るらしいよ」
「タレントデビューかな?」
「全部断ってるみたいだけどね」
ノエルは「先輩風吹かせられると思ったのに……」としょんぼりしているが、瑛斗自身も内心は少しもったいないと感じてはいる。
二人とも才能があるだろうし、おまけに努力が出来るタイプだから。今から頑張ればいずれは活躍……将来の武器にもなりうる。
けれど、口にはしない。才能の価値を決めるのは他人であっても、それを使うかどうかは本人にしか委ねられないことだから。
欲を言えば二人が忙しくなると寂しいという気持ちもあるのだけれど。
「そう言えば、噂で聞いたんだけどさ」
「なに?」
「瑛斗くんってS級の女の子と友達になろうとしてるって本当?」
「……さあ、どうだろう」
「イヴちゃんが元社長に動かされたのも、私に近付く可能性のある男がいるからって理由だったみたいだし」
「もしそうだったとして、ノエルはどう思う?」
「んー、普通ならちょっと引いちゃうかな。スペックの高い子ばかりってのは」
やはり客観的に見ればそうなるのか。彼は若干傷付いたが、何とか顔には出さないように抑え切る。
あの一件から瑛斗もノエルたちのグループに興味を持つようになって、過去のライブ映像なんかも視聴しているのだ。
友達でありながらアイドルという要素も強く認識し始めているが故に、引くなんて言葉は割と凶器に近い。
「でも、瑛斗くんなら引かない。何か理由がある気がするし、何よりイヴちゃんの恩人だから」
刃物は引っこ抜く方が危険とはよく言うが、彼の傷口から溢れ出したのは安堵の感情。
信頼してくれていると分かる表情は、映像で見たどんなファンサよりも嬉しかった。
「さすがはノエルたそ……」
「や、やめてよその呼び方。今はアイドルじゃなくて友達として話してるんだから」
「ごめんごめん、オンオフは大事だもんね」
「まあね。ただ、オフの時に悪いんだけどひとつお願いを聞いてくれたりしない?」
「お願い?」
なるほど、それがここに来た本当の理由か。瑛斗は心の中だけで納得すると、「内容によるかな」と言葉を返す。
滅多なお願いでなければ聞き入れるだろうが、無責任なことは言えないから。
ノエルが突然「私を殴って!」なんてドラマみたいなことを言い始めないとも――――――。
「お願い、私を振って!」
――――――――――限らないし。
「……は?」
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