第46話 ごめんなさいが遅すぎた
妹誘拐ドッキリの後、あれから事務所がどうなったのかをノエルとイヴの口から聞いた。
どうやら思いの外トントン拍子で事が運んだらしく、世間体的には社長の辞任で騒ぎの責任を取ったというテイに落ち着いたようだ。
ノエル自身が信頼出来ると言う人が社長なら、今後同じような事は起こらないだろう。
ならば、残る問題は両親だ。その二人が自らの娘をこんな目に遭わせたのだから。
そう思っていると、心の声を察したらしいノエルが彼の肩を叩いて首を横に振った。
「実は、お父さんとお母さんに謝られたの」
「……どういうこと?」
「話すと長くなるんだけど――――――――」
話は遡ること昨晩。
ほかの全てが解決し、残る両親を二人は問い詰めた。事務所から受けた仕打ちと、これまで隠していた本心の全てをぶつけて。
すると、二人は血相を変えて近付いて来た。怒鳴られると覚悟したけれど、聞こえてきたのは謝罪の言葉。
二人の全身を確認して、怪我が無いことを確かめると安心したように微笑みながら涙を零す。
いつも綺麗な自分を演じているノエルだから分かる。二人が偽ってなんて居ないと。
「ごめんなさい、二人とも。私たち、事務所からは言われた通りにしてるって報告されてて……」
「……言われた通り?」
「ノエルがアイドル、イヴが支える役としてそばに居させてやって欲しい。それが二人の夢だからって」
「…………」
ノエルの夢は世界一のアイドルになること。だけれど、イヴがそれを支えることが夢なんて言われたことは―――――――――。
そこまで考えて、二人はハッとした。覚えがあるのだ、薄らとだが確かに。
夢だなんて言っていいのかも分からないほど幼い時のこと。ノエルがアイドルではなく、子役としてテレビに出始めた頃だ。
『わたし、アイドルになりたい!』
『アイドル……?』
『みんなをえがおにするおしごと!』
『みんな、えがお。イヴ、おてつだい、する』
『ほんと? じゃあ、ふたりでがんばる!』
テレビの中でキラキラ輝くアイドルを見て憧れを覚えたあの日、そんな約束をしたような気がする。
両親はそれを見ていて、叶えるための手助けとして事務所にノエルだけでなくイヴの面倒も見てもらえるように頼んだのだ。
それをあの社長が利用したというだけの話。二人に非があるとすれば、実際に仕事の様子を見に来なかったことくらいだろう。
「じゃあ、どうしてイヴちゃんを作ったの?!」
「どうしてって、子供が欲しかったから……」
「私がいたじゃん!」
「何を言ってるんだ、ノエル。お前とイヴは一緒に生まれたんだぞ?」
「一緒? 私、ノエル、別々」
イヴが自分を指差しながら「研究室、生まれた」というのを聞いて、目を見合せた両親は何かを思い出したかのように頷いた。
「確かに、お前たちが生まれたのは厳密には別なのかもしれないな」
「そうね。イヴちゃん、あなたは研究室の中で目を覚ましたんだもの」
「やっぱり、クローン?」
「あなたがクローンだって言ったのは嘘なの。二人は普通の双子よ」
「どうしてそんな嘘をついたの。イヴちゃんが傷付くって分かってたでしょ?!」
「誤解を解くのを先延ばしにしてたお父さんの責任だ。本当にすまない」
二人によれば、イヴの記憶にあるカプセルというのは、とある研究機関が作った母体の内部を再現した機械だったらしい。
何故そんなものに入っていたのか。それは、双子の内でイヴだけが未成熟な時期に生まれてしまったから。
あまりに突然のことで、今でも理由はわかっていないそうだ。
「どうしてもあなたに生きて欲しくて、未承認だったあの機械の実験に参加したの」
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