第43話 双子にテレパシーなんて存在しない

 事務所とテレビ局。

 そもそも脅迫文は二通あり、その片方を受け取った事務所はイヴを厄介払いするいいチャンスだと利用することにした。

 しかし、テレビ局側も同じ考えをするとは限らない。だって生放送で誘拐が起これば、局の消えない黒歴史として刻まれるから。

 ダメージが大きいのは明らかに後者。そんなことは知らないとばかりにそっぽを向く事務所に、怒りを覚えないはずはない。

 ただ、事務所からの圧力を受けていたテレビ局は、麗子の紹介とは言え電話での瑛斗の話を聞き入れることは出来なかった。

 そこで彼が持ち出したのが、あの『テレビ局をぶっ壊す』という計画。

 当初は単に生放送で事故を起こして……なんて注目を浴びそうな作戦だったが、偶然にもそれは向こう側しか知らない情報を引き出した。

 それが本物の誘拐事件。そう、瑛斗たちによるものでないとなれば、本物は確かにどこかに潜んでいることになる。

 奴らは事務所にとっては都合のいい駒であり、テレビ局にとってはネックとなる存在。

 それを聞いた瑛斗はひとつの提案をした。


『もし、誘拐犯が居なくなるとしたら、協力してくれますか?』


 もちろん、テレビ局の社長ともなるお方だ。見ず知らずの人間が言うことを易々と信じるわけが無い。

 だから畳み掛けるように伝えた。『とてもいい素材を提供しますよ』と。


「……材料?」

「まだ分からない? まさに今、カメラに収められてテレビ局が好きなように使えてしまうアイドルの暴力映像のことだよ」

「っ?!」


 カメラが設置されていることは既にわかっていたが、まさかそれがテレビ局側のものだとは初めて知った。

 単なる映像と思うかもしれないが、デビュー直後に散々バカにされたノエルには分かる。メディアによる切り取りの恐ろしさが。

 おまけに、売れっ子アイドルが誘拐された瞬間をお届けした局自身がその映像の使用権を握っているのだ。

 これがどういうことを示すかは、テレビに精通しているノエルならすぐに思い至れた。


「誘拐は……盛大な前フリ?」

「その通り。名付けて『アイドル天使の妹愛を確かめるドッキリ』ってところかな」

「ど、ドッキリ……」

「アイドルを貶めるためだと思った? 残念だけど、僕の役目はイヴを救うことだから。ノエルを傷つけることじゃなくてね」


 ここまで話せば伝わるとは思うが、もちろんセットの破壊や生放送を台無しにすることの許可は取ってある。

 撮影の費用は全て麗子のポケットマネーから出され、タダで普通なら手に入らない映像がゲットできるのだ。

 さらに言えば、本物の脅迫文を出した犯人たちは白銀家のメイド三銃士が捕らえている。今頃ニュースに顔が出ている頃だろう。

 一時的に発生するリスクの全てを合わせても、手に入る利益の方が大きい。社長はそう判断したのだろう。

 だから、「テレビ局をぶっ壊す」という話に乗ってくれた。炎上覚悟で。


「で、でも、どうして私をドッキリにかけたの? そんなことをして何の得が……」

「ノエル、君は勘違いをしてる。僕らの目的はドッキリなんかじゃない、それはテレビ局を利用するための口実だよ」

「どういうことなの、訳がわからないよ」

「分かりやすく言ってあげる。イヴは確かめたかったんだ、君が敵なのか味方なのか」

「……私が、敵?」


 事務所が悪事を働いていることは明らかだった。しかし、事務所の言う通りに動くノエルもイヴを同じように思っているのかは分からない。

 だから、ドッキリを仕掛けることで本心を炙り出そうとした。それが見事成功したというわけだ。


「ノエルはテレビよりもイヴを優先した。つまり、敵じゃないってこと」

「当たり前だよ、私はイヴちゃんと一緒に世界一のアイドルになるんだから」

「だったら、彼女がどんな気持ちでノエルの傍にいたか知ってるの?」

「……え?」


 驚いたように声を漏らし、イヴの目を見つめるノエル。いくら双子でも分かるはずがない、口にも顔にも出さない感情なんて。


「教えてあげて、イヴ」

「……」コク


 瑛斗の言葉に小さく頷いた彼女は、ようやく開いた口から言葉を発するのだった。


「私、辛かった」

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