第41話ド派手にひと暴れ

 テレビ局を飛び出してから数分。テレビの力を使っても、確かな情報はひとつも届かない。

 右に行けばいいのか、左に行けばいいのかすら分からなくなって頭を抱えていると、ポケットの中のスマホが震えた。柴波崎しばさきさんからだ。


「もしもし、柴波崎?」

『ノエル、お前はクビに……』

『黙って下さい、社長。ノエル様、イヴ様の包帯に仕込んだGPSの信号をキャッチしました。メッセージで送ります』

「包帯に?」


 思い返してみれば、家を出る前やたら入念に巻いているなと思った記憶がある。

 本当に怪我をしている訳でもないのに、完璧主義な性格故だろうと納得していたが、ちゃんとした理由があったのだ。


「本当にありがとう、柴波崎」

『マネージャーとしての仕事ですから』


 お礼を伝えて通話を切ると、すぐにURLが届く。それをタップすると、とある位置を示すマップが表示された。

 どうやらここからそう遠くない場所にある工場跡地にイヴはいるらしい。一刻も早く向かわなければ。


「待ってて、イヴちゃん!」

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 地図を元に辿り着いた工場跡地は、しんと静まり返って不気味な雰囲気を放っていた。

 押し返すような不気味さに負けないように自分を鼓舞し、恐る恐る奥へと進む。

 歩を進めるほどに入口からの光ではよく見えないほど暗くなってきて、スマホを取り出そうとポケットに手を突っ込んだ時。

 強がりではどうにもならない震えのせいで上手く掴めず、滑り落ちたそれがカタンと音を響かせた。


 ガタン。


 短く思い音が聞こえ、照明が灯る。ステージでライトには慣れている彼女も、思わず目を覆うほどの光。

 ようやく開けるようになった瞳に写ったのは、10……いや、20や30はいるガタイのいい男たちの姿。

 彼らの手には鉄パイプやバールのようなものが握られていて、気味の悪いにやけ顔にノエルは思わず後退る。

 けれど、彼らが誘拐犯であることは間違いない。ここまで来て逃げたらカメラの前で啖呵を切った意味がなくなってしまう。


「アイドルの本気を舐めないで下さいよ」


 拳を握り締め、襲いかかってくる男たちの攻撃をかわして右ストレート。

 人を殴るなんて初めてだが、怒りで感覚が麻痺しているのかもしれない。思ったよりもあっさりと倒れていく。

 左フック、膝蹴り、背負い投げ。今の時代、アイドルは守られているだけではいけない。事務所の意向で護身術を習っていて良かった。

 バッタバタと倒れていく男たちを見ながら、心の中でそう呟く。感謝なんて絶対にしてやるつもりは無いが。


「お前ら、情けねぇな」


 大半を倒すと、倉庫の奥の扉からいかにもボスらしきサングラスの男が現れた。

 その背後にはムキムキの巨漢が二十人。彼らの強さは、きっと先程までとは比べ物にならないだろう。

 ノエルもかなり疲弊している。心を奮い立たせようにも、体の方がここまでだと膝を付いてしまって立ち上がれない。

 悔し涙が頬を伝ってコンクリートの床に落ちる。そんな彼女はふと聞こえてきた音に振り返った。

 入口の方から車の音が聞こえるのだ。それはどんどんと近付いてきて―――――――――。


 ガッシャァァァァン!


 置いてある資材もドラム缶もものともせず、跳ねるようにして突っ込んできた高級車がドリフトしながら一部の男たちを薙ぎ払う。

 それはノエルを守るようにして停ると、開いた扉から現れたのは自分と同じ制服に身を包んだ少年少女たちだった。


102トウフ、運転が荒いですよ」

「申し訳ありません。少々イラついておりまして」

「奇遇ですね、私もです。ね、東條とうじょうさん」

「当たり前じゃない。女の子ひとりにこの人数、ダサいったらありゃしないわよ」


 102トウフさん、麗子れいこ紅葉くれは。三人は軽く準備体操を済ませると、飛びかかってくる男たちを持ち前の身体能力で倒し始める。

 もちろん瑛斗えいともいるが、彼は戦えないのでペンライトを振って後ろから応援。

 そんな彼は頑張れと声を掛けることに夢中で、背後に男がいることに気が付かなかった。


「隙ありぃぃぃぃ!」


 振り下ろされるハンマー。振り返った時にはもう手遅れで、ガードすら間に合わず……。


「たぁっ!」


 頭を殴られる直前。文字通り飛んできたノエルの足が、男の左頬にめり込んで蹴り飛ばす。


「ふぅ、大丈夫?」

「ありがとう、ノエルさん」

「呼び捨てでいいよ。それより、助けに来てくれてありがとう」

「こっちが助けられちゃったけどね」


 そんな会話をしながら、二人は背中を向けあって構える。おしゃべりの続きは全員片付けてからになりそうだ。


「そっちは頼むよ、瑛斗くん」

「任された」


 たまには思いっきり暴れるのも悪くは無い。そう言いたげな横顔をチラ見して、瑛斗も拳を握りしめた。

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