第38話 不測の事態は舞い込んだチャンス

 イヴと手を組むと決めてから数日後、なかなか決まらない作戦に頭を悩ませていると、イヴから一通のメッセージが届いた。

 そこそこ長文だが、内容をざっくりまとめると『ノエルに扮して再びステージに立つことになった』とのこと。

 何故今更またと思ったが、どうやらノエルがレッスン中にメンバーとぶつかって転んでしまい、手首を負傷したらしい。

 激しいダンスをするとマイクを落としてしまうようで、生放送のステージに立たせる訳には行かないとなったそうな。

 かと言って怪我で出演キャンセルというのも、今後の仕事に関わる。そういうわけでイヴに踊ってもらうことになったのだ。

 幸いにもイヴは一度見たダンスを完璧にコピー出来る。ノエルの練習風景を見て癖や失敗例も頭に入っているので問題は無いとのこと。

 ならば、何か行動を起こすならこのタイミングがベストだろう。最も観衆の注目を浴びているダンスが終わったその瞬間、彼女の口からカメラの前で全てを明かせばいい。

 世界中がノエルだと思っている以上、例え誰かに止められても、カメラが遮断されたとて、放送事故として話題にはなる。

 そうなればマスコミの追求からは逃れられず、少なからず事務所やノエルにダメージを与えられるというわけだ。

 復讐はそれで完了。アイドルをやめたノエルの警護をする必要もなく、イヴは晴れて自由の身となれる。

 娘のクローンを作り出すような家族からは除け者にされるかもしれないが、その時は瑛斗えいとが面倒を見るつもりだ。

 それが彼女と交わした契約、一生を賭けるということになるから。


「ただ、無関係な人に迷惑はかけられないか」

「でしたら、私がお嬢様にお願いしましょうか」

「……居たんですか、102トウフさん」

「任務ですから。四六時中見張っていますよ」

「せめて見守るって言って欲しいですけど」


 メイドさんに監視されるのは少し怖いが、彼女がまだ手助けをしてくれるのなら心強くもある。何せ大きなことをしようとしているのだ。

 ただの高校生一人でどうにかなる問題ではない。きっと、その未来に待つのは共倒れしかないだろうから。


「ノエル様が出演される番組を放送するテレビ局は、ちょうど白銀しろかね家が出資しています」

「でも、麗子れいこの手を煩わせるのは……」

「お嬢様は喜ばれると思いますよ。昨晩連絡した時も、狭間はざまが必要とあればすぐに声をかけて欲しいと」

「頼もし過ぎますよ」


 麗子……いや、麗華れいかとしての問題も解決していないのに、他の問題に片足を突っ込ませるのはさすがに気が引ける。

 ただ、彼女の顔に多くの人の頭を下げさせる力があることは確かだ。

 それは父親の七光りという意味だけでなく、彼女自身が多くの人に恩を作っているということもあるが。


「……頼んでもらえますか?」

「承知しました」


 麗子にはテレビ局のお偉いさんに『狭間瑛斗という人の言うことを聞くように』と伝えてもらい、その後電話で直接話をした。

 しかし、生放送を台無しにするという作戦だ。テレビ局の命運を握る人間として、さすがに二つ返事でOKは出せない。

 それにテレビ局としては、売れているアイドルを提供してくれる事務所との関係も、出資者と同じくらい大事にしたいだろう。

 それをタダで捨てろというのは、さすがに虫が良すぎる……向こうからすれば虫が悪すぎると言い表すべきかもしれない。

 社会を知らない瑛斗だって、その程度の予想は出来た。だから、ここでひとつ別の提案をすることにしたのだ。


「テレビ局をぶっ壊しませんか?」

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