第32話 ○×クイズ、正解はどーっちだ?
あの後、結局窓ガラスを割った犯人は見つからないまま、同時刻に校庭でキャッチボールをしていた野球部員のせいなのではないかという噂だけが残る結果となった。
先生たちから気をつけるようにと叱られる彼らは腑に落ちないといった様子だが、残念ながら助け舟を出すことは出来ない。
ここはあくまで事故だったということにしておくことが、真犯人を刺激しない一番の策だと思うから。
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放課後、
それに気がついたクラスメイトが話を聞きに行くと、何やら彼女は誰かを探していたようで、クラスメイトの指がこちらへと向けられる。
おそらくこちらに来るつもりだ。そう察した彼は何も知らないフリをしてそそくさと帰ろうとするが、そう簡単に行くほど甘くはない。
「瑛斗くんって言うんだね」
名前を呼ばれてしまえば、無視する方が怪しまれる。渋々振り返ると、ノエルはにっこりと微笑みながら小走りで寄ってきた。
「……黄冬樹さん」
「名前、知っててくれたの?」
「さっき教えてもらったところ」
「興味持ってくれたんだ、嬉しいなぁ♪」
さすがはアイドル、一挙手一投足がキラキラしている。表情から仕草まで、全てにおいて男心の掴み方が上手いと言うべきだろうか。
しかし、だからと言ってホイホイ釣られれば相手の思う壷だ。警戒は緩めない。
「わざわざどうしたの?」
「実は先生にこれまで休んだ分の課題の一部をやっておくようにって言われちゃって」
「忙しいらしいね」
「ファンのみんなのおかげさまで。でも、私勉強はあまり出来ないから……」
「誰かに教えてもらえばいいんじゃない?」
「そう! だから瑛斗くんに頼みに来たんだよ」
ノエルの言葉にクラスメイトたちがザワつく。それもそのはず、プロフィールを見たが彼女はS級なのだから。
紅葉や
S級がF級に公衆の面前で勉強を教えて欲しいなんて頼むのは前代未聞なのである。
普通に考えれば羨ましくて仕方がないシチュエーション、断るなんて考えられない。が、あくまでそれは事情を知らない人間の考えだ。
「勉強を教えるだけなら麗子の方が向いてると思うよ、成績も学年9位だし」
「瑛斗くんがいいの」
「どうして?」
「逆に聞くけどどうして拒むの?」
悲しそうな声、シュンとする肩。他の人から見れば、可哀想な女の子だ。
しかし、正面に立っている瑛斗にだけは、彼女がほんの少しだけ訝しむような視線を見せているようにも思えた。
まるで何かを探っているような目。じっと見つめていれば、この顔を覚えているのかと聞かれているような気すらしてくる。
「……いや、わざわざF級に頼むなんて変わってるなと思ってね」
「確かに、言われてみればそうかも。迷惑だったらごめんね?」
「そんなことないよ。むしろ光栄なくらい」
「じゃあ、教えてくれる?」
一対一でも断るのに困ると言うのに、今は多くの視線がある。
誰もが憧れるアイドルからのお誘いを断れば、いい意味でも悪い意味でも有名人だ。
自分によからぬ感情を抱く人間は少ない方がいいし、広まり過ぎれば敵の耳にも話が届いてしまうかもしれない。
S級と交流するという大胆な行動をするためにも、必要最低限以外のことはなるべく水面下で動きたいのだ。
ここは一番波風を立てない選択をするべきだろう。選んだと言えるのかどうかも怪しいが。
「わかった、付き合うよ」
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