第30話 アリバイは山城の如く
テスト期間が過ぎてから数日後。襲って来ない例の少女への警戒心が薄れ始めていた。
少し前に学園長から送られてきた学園に通う銀髪の生徒を全員見せてもらったが、見覚えのある顔はどこにもない。
あの制服は間違いなく
卒業生が懐かしの学校を見に来たと言えば、警備員だって止めない可能性は高い。つまり、容疑者は果てしなく多いというわけだ。
しかし、それが悪いニュースとも限らない。在学生でないのなら、あの襲撃は無差別……つまり、あの時トイレに来たのが他の生徒でも同じように起こっていたことである可能性も出てくるから。
そんな人間が世の中にいること自体は怖いが、ナイフに怯えなくていいと分かれば、
ただひとつ気がかりなのは、学園長が生徒写真を送ってくれたメールの件だろうか。
文面には18人と書かれていたが、添付された画像を数えてみると17枚しか無かった。打ち間違いだとは思うが、あの人に限って……。
「……あっ」
そんなことを考えながら歩いていると、突然右肩がトンと何かにぶつかった。
どうやら相手はすれ違おうとしていた生徒のようで、驚いた顔をしていると「ごめんね」と謝ってくれる。
ぼーっとしていたのは自分の方だ。瑛斗もすぐに謝罪の言葉を口にして彼女の目を見た。
透き通るような瞳を、長いまつ毛が包んでいる。きっとこういう出会い方でなければ、美人さに惚けていたかもしれない。
ただ、瑛斗は目の前の顔を知っていた。まさについさっきまで頭の中に浮かんでいたあの銀髪少女と同じ顔だ。
しかし、髪色が違う。目の前にいる彼女は銀ではなく金色の髪をしていた。
「っ……」
「どうかした? あ、怪我させちゃったとか?!」
「い、いや、何でもないよ」
心配そうな目で近付いて来る彼女に一歩後退りつつ、伸ばされた腕を見て反射的に拒否反応を示してしまう。
だが、あの時の少女の顔は、見るだけで寒気がするほど冷たい無表情だったはず。
今目の前にいるのは、まるで別人かのようにコロコロと表情を変えていた。
プロの暗殺者ともなると、ここまで自分を使い分けることが出来るというのだろうか。
色々な思惑が脳内を駆け巡るが、今は手を跳ね除けてしまったそれらしい言い訳を考えなくてはならない。
他人の空似でもない限り、彼女が銀髪少女と同一人物である可能性はかなり高いのだから。
顔を覚えていると知られれば、きっと始末される。この接触もそれを確かめるための演技だと思った方がいい。
「ごめん、僕F級だからさ。下手に関わるとポイントの問題がね」
「なるほど、そういうこと。てっきり嫌われてるのかと思っちゃった」
「初対面の相手を嫌ったりしないよ」
「だよね!」
金髪の少女は納得してくれたようで、「じゃあ、私も気を付けないと」と降伏する犯人のように両手を上げながら下がっていく。
そのまま廊下の突き当たりまで行くと、「またね〜」と手を振って行ってしまった。
何だか変わった子らしいが、最後まで銀髪の少女から感じられたような殺気は確認出来ないまま。むしろ、好意的だったとさえ言える。
「でも、もし同一人物だとしたら……」
その線で考えれば、腑に落ちない点に関して納得出来ることがいくつかあった。
あれだけの差があれば、瑛斗が話した犯人の特徴に引っかからないのも当然だったから。
無表情なんてワードがあれば、彼女はまず初めに対象から外されるだろう。
誰もいなくなった廊下の真ん中でそんなことを考えていると、どこからともなく現れた
「あの方を疑っているのですか?」
「もしかしたらとは。顔が同じですし」
「なるほど。ですが、あの方に犯行は不可能だったと思いますよ」
「どうしてですか」
「
「彼女……
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