第29話 優しい裏切り
テストの日数は四日、間に土日を挟んだから合計六日。例の銀髪の少女がこの間に襲ってくることは無かった。
向こうも
それ故の安寧の時間なのだろうが、それはつまり犯人がまだ近くにいるという情報を再確認したということになる。
今思えば、あのタイミングで襲ってきたのは、テストを受けられないようにするためだったのかもしれない。
そうすればポイントが稼げなくなる。つまり、銀髪の少女自身or雇用主は彼にポイントを稼がれると困るということだ。
……こんな情報だけでは、黒幕なんてほとんど絞られていないも同然だが。
「テストを返します、番号順に取りに来てね〜」
担任の
先生は一人ずつに一言声を掛けながら手渡していき、最後の瑛斗にも同じように「よく頑張りましたぁ〜」とぽわぽわな笑顔を向けてくれる。
結果はずば抜けて良いとは言えないが、どの教科も平均点は余裕で上回っているらしい。
配られるポイントは合計点に100を掛けた数値だ。つまり、彼が手に入れられるのは41200ポイントになる。
1ポイントが大体1円と等しいため、約4万円分ゲットしたということだ。
上位10名に入れば更にボーナスがあるらしいが、さすがに高望みし過ぎるのも良くない。
472点の紅葉と478点の麗子で9位と10位なのだ、もはや頭の出来が違う。
「私の方が上でしたね」
「たった6点じゃない」
「ボーナスにはウン万の差がありますが」
「……別に、ポイントいらないし」
「上位で卒業したくないのですか?」
「そりゃ、したいわよ。楽出来るなら楽して生きたいのは当然でしょ?」
「もちろんです。ですが、ペナルティのせいでかなり順位が落ちてますよね」
「あなたの元取り巻きのせいでしょうが」
「ええ。だから、彼女たちを切り捨てたんです」
そう言いながら三人組の方を見つめる麗子の目には、明らかな恨みが揺らめいていた。
紅葉もそれを察したのだろう。それ以上の文句は口にせず、同じような感情をその瞳の中に宿らせる。
何だかんだ、麗子が支持して嘘をつかせたという誤解は解けたようだ。今は共通の敵がいる同志と言うべきだろうか。
競い合う良きライバルでもあるのだろうけれど。実にいい関係だと思う。
「4万ポイントもあれば、少しくらいはS級ともコミュニケーションが取れるかな……」
「……」
「……」
ボソッと呟いた独り言が聞こえたらしい。二人はお互いに目を見合せた後、少し言いずらそうに言葉を濁らせながら聞いてきた。
「ねえ、瑛斗って……その、S級に知り合いでもいるの?」
「私の時もそうでしたけど、何だか誰かを探してるように見えるんです」
「本心は隠してるつもりだったんだけど。僕に演技の才能はなかったってことかな」
この二人は信用している。敵と繋がっているなんてことは無いと断言出来る。
だから話してしまおうかとも思ったが、やっぱりやめておいた。今二人を巻き込んでもいいことなんてないだろうから。
「何でもないよ。ただ、自分と生きる世界が違う人に興味があるだけ」
「……本当に?」
「僕が嘘をついてるように見える?」
「……見えないけど」
見つめ返されて視線を逸らした紅葉は、そう呟くと口を閉ざしてしまう。麗子も同じだ。
二人とも完全に信じたという訳ではないのだろうが、今はそれでいい。
銀髪の少女が敵に雇われている可能性もある。正体も分からないのに関わってしまえば、差し向けられる対象になってしまうかもしれない。
そんなことを防ぐためには、今はただの友達で居てもらうのが一番なのだ。
「大事な友達だから、嘘なんてつかないよ」
きっと、これも裏切りなのだろう。そんな後ろめたさは上手く隠せていたと思う。
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