第25話 友達に利害関係は必要なし
『友達登録』。そんなシステムのことを、転校して来る前にも少し教えられた気がする。
相手が仲のいい友人であると認めた相手に対して申請を送り、受け取った側が承諾すれば友達登録の完了となる。
もちろん仲良しごっこのためだけのシステムではなく、友達だと認められれば、本来払うはずのポイントをゼロにすることが出来るのだ。
友人同士で仲良くするのにお金を払うなんておかしい。そういう意見の元、新たに作られたシステムだと聞いている。
ただ、問題はこれを使っている生徒が少ないということだろう。上辺だけの友人関係が、ポイントの支払いという支柱によって成り立っていることもあるから。
制度を当たり前に受けいれてしまった少年少女たちにとっては、むしろそっちの方が当たり前という感覚になっているのだ。
故に余計な詮索をして関係を壊すくらいなら、申請なんてせずに今のままでい続けよう。この学園では誰もがそう考えている。
――――――――
「私、瑛斗さんからポイントは受け取りたくありません。受け取っても全部返したいくらいです」
「でも、そんなことしたら……」
「平気ですよ。私、それなりに持ってるので」
「……麗華がいいなら僕もいいけど」
「じゃあ、申請承諾して下さいね。友達が居ると、定期的にボーナスも支給されますから。これだけで瑛斗さんの役に立てると思うと嬉しいです♪」
彼女の言葉には嘘も陰りも一切無く、ただただ昨日の瑛斗の言葉に対する恩返しがしたいという気持ちだけがそこにあった。
おかげで麗華と話す時にポイントのことを気にせずに済む。けれど、これだけではまだ本当の友人とは言えない。
搾取するだけの存在なんて、あの取り巻き三人組と何も変わらないのだから。
「僕からも送ったよ、申請」
そう、一方通行の友情ほど脆いものは無い。送られたのなら送り返す、キャッチボールしてこその関係なのだ。
「え、でも、これでは私からのポイントが……」
「僕も麗華から受け取りたくない。友達にお金を恵んでもらうみたいで嫌だからさ」
「……ふふ、
「言うようになったね」
「友達ですから、素直になりますよ」
「それでこそだ」
彼女の本性は、嘘で塗り固められた『麗子』よりも黒くて汚いものかもしれない。
けれど、日陰に隠れているよりかはずっと綺麗に見える。光がなければ、宝石だって輝くことは出来ないのだから。
「そう言えば、東條さんにも申請してあげたらどうです?」
「紅葉はその気は無いみたいだよ?」
「そんなの隠してるに決まってるじゃないですか。本当は誰よりもそういうのが嫌いだって、瑛斗さんなら分かりますよね」
「そうだね。戻ったら聞いてみるよ」
「是非そうして下さい。私だけ、なんてイチャモンつけられても気分が悪いので」
「……本当に言うようになったね」
「すごくいい気分です、隠さずに済むのって」
「それは嬉しいよ」
この時間だけでもいい。本当の彼女が、人生の1%しか顔を見せないのなら、その全てを瑛斗は見届けてあげたい。
それが今出来る一番の寄り添いだと思うから。そんな理想への第一歩が、ポイントという壁を無くすことだった。
彼は心の中でそんなことを考えつつ、教室へ戻るとすぐに紅葉に人生を送る。
彼女はおどろいたかおをしていたが、きっと胸の中にあった『ポイントの関係』が否定されたからだろう。
心から嬉しそうな笑顔を見せて、ちゃんと申請を送り返してくれた。
「これで本当の友達だね」
「……今まで違ったの?」
「冗談だよ。ずっと友達だから」
「ふん、瑛斗のくせに臭いこと言うじゃない」
「そういうこと言われると取り消したくなるな」
「ダメ! 取り消したら怒るわよ」
「紅葉が怒るところ、見てみたい」
「うっ……うぅ……」
怒りを通り越して涙を滲ませる彼女に、慌てて取り消すという言葉を取り消したことは言うまでもない。
これからもS級に接触して、多くの人間と友達登録をすることが出来れば、いずれ『敵』に辿り着くだろう。
楽しい学園生活を送ることが目標だったならどれだけ良かったか。そんな夢物語を噛み締めつつ、紅葉の涙を拭ってあげる。
一方その頃、S級二人と友達登録をしたF級がいるという情報を耳にしたある人物は、画面に表示されたデータを見つめながら短いため息を零していた。
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