第24話 お金は足場にもなるし、壁にもなる

 麗華れいかとの一件があった翌日。彼女は変わらず麗子れいこの仮面を被ったまま生活することにしたらしい。

 故に学園では本当の名を口にすることは出来ず、変わったのは取り巻きとの関係を遮断し、瑛斗えいとと表立って話すようになったことくらい。

 いきなり全てをひっくり返すことは難しいが、小さなことからコツコツと自分を取り戻す決意をしてくれたようだ。

 一方、瑛斗えいとは昼休みになるなりすぐに学園長に呼び出されていた。

 昨日、麗子れいこと話している間、ずっとポイント不足の通知が届いていたらしい。

 気付かずにハグやらキスやらをしてしまったため、どんどんポイントがマイナスになり……。

 最終的にC級の生徒の平均ポイントを全て使ってようやく返済出来るほどの負債を抱えることになってしまったと聞かされた。

 こんなことは前代未聞だ、一体何が起こっているんだと職音室は大騒ぎだったそうな。


「えっと、僕はどうなるんですか?」

「本来ならペナルティ、もしくは返済期限を過ぎれば退学か留年になる。ただ、ワタシも鬼じゃない」

「免除とかは……」

「さすがにそれは無理だね。ただ、君のことだから事情があるんだろう?」

「はい。叔父さんにも言えませんけど」

「だったらチャンスをあげよう。今、君は麗子クンにポイント未払いの状態だ」


 学園長が言うには、ポイントを受け取る側の人間がそれを拒否してくれれば、借金は無かったことにすることが可能らしい。

 要するに、麗子に取り立てを無しにしてくれないかと頼み込む必要があるということだ。

 自分が幸せにしてやるなんて大口を叩いた次の日にこんなことになるとは、我ながら情けないにも程があった。


「他の手段で返済出来るなら構わないけど、さすがに紅葉くれはクンに頼むのも忍びないだろう」

「ですね。さすがに言えません」

「記録を見る限りは相当仲良くなったみたいだし、難しいことでもないと思うよ。善は急げだ」

「分かりました、行ってきます」


 学園長に見送られながら部屋を飛び出した瑛斗は、真っ直ぐ教室へ戻ると、自分の席で紅葉と睨み合いながらお弁当を食べている麗子の肩を叩く。

 話し掛けたのが彼だと気がつくと、彼女はすぐに満面の笑みを見せてくれた。


「あら、どうかされましたか? 急いでいるように見えますが」

「話があるんだ。二人で話せる?」

「私は構いませんよ。ふふ、いつでも二人きりになりたいです」

「それは良かった。紅葉は待ってて、すぐ戻るから」

「むっ……最近、私放置されすぎじゃない?」

「ごめんって。また埋め合わせするから」

「だったらいいけど……」


 ムスッとした顔で玉子焼きを頬張る彼女に背を向け、瑛斗は麗子と共に教室の外へ出た。

 人気のない階段下のスペースまで移動すると、目が合って照れ臭そうにする彼女に思い切って本題を切り出す。


「昨日の会話分のポイント、受け取りを拒否してくれないかな」


 断られたら何をしたっていい。言う通りにするし、靴だって舐めてもいい。この学園に残れるならどんなことだってする覚悟だ。

 決心を拳と共に固める瑛斗。そんな彼とは裏腹に、麗子はあっさりと承諾してくれた。


「……いいの? 相当なポイントだよ?」

「いいんですいいんです。私、それ以上に瑛斗さんに助けられちゃいましたから」

「ありがとう、麗華」

「誰かに聞かれたら責任取って貰いますよ」

「もちろん取るよ」

「ふふ、だったらいくらでも呼んでください」


 嬉しそうに微笑む麗華。二人きりの時しか真に本当の自分で居られないからだろう。

 教室にいた時よりも、今の方がずっと活き活きしているように見える。

 そんな姿を見つめながら、こういう時間も作らないといけないなと思っていると、ふと麗華が何かを思いついたようにデバイスをいじり始めた。

 それから瑛斗のプロフィールを開くと、その画面をこちらに見せながら指先でとあるボタンを指し示す。そこには『申請』の二文字。


「この際なので、友達登録しちゃいます?」

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