第18話 友達はポイントで買えない

 アクションを起こしてもポイントのやり取りが行われない相手には、考えられるだけで二種類存在する。

 一つ目がペナルティによってポイントが獲得できない状態であること。

 しかし、たとえ紅葉くれはのようにペナルティを受けて獲得ポイントがゼロになったとしても、ゼロポイントを送ったという通知が来ることは学園長に確認済みだ。

 その可能性が無いとなれば、二つ目の可能性である『白銀しろかね 麗子れいこはこの学園の生徒ではない』ということになる。

 だが、彼女とポイントのやり取りをした記録は以前にあるし、そもそも生徒では無いのに授業が受けられるわけが無い。


「……もう帰っちゃったか」


 あの後、瑛斗えいとは学園の中を探し回ったが、麗子の姿を見つけることは出来なかった。

 本人を直接問い詰めるのが手っ取り早いと思ったのだが、途中で紅葉に見つかってしまい、カンカンに怒った彼女によって無理矢理学校から連れ出されてしまったのである。

 仕方ないので翌日話しかけようとしたが、取り巻き三人組のガードは固く、挨拶をすることすら出来そうにない。

 授業中もこちらを見てくれず、昼食も一緒に食べてくれず、誰がどう見てもあからさまに避けられている様子だった。


「あなた、白銀麗子に何かしたの?」

「いや、何もしてないよ」

「それなのにあの態度になるかしら」

「……疑ってる?」

「少しはね。あなたも男の子だもの」

「何かするなら紅葉にすると思うけど」

「は、はぁ?! 私のことそういう目で見てたの?」

「例えばの話だよ。実際は全く見てない」

「それはそれで失礼ね……」


 紅葉とそんな会話をした後、瑛斗はお手洗いに行ってくると席を立った。

 彼女も「私も……」と言いかけたが、同性ならともかく異性と連れションなんておかしいと思い直したのだろう。

 どの道同じトイレに入る訳では無いのだ。「いい子で待ってて」と頭を撫でると、ぷいっと顔を背けられてしまった。

 紅葉は本当に嫌な時、目を逸らすどころか睨みつけて来たり手を払い除けたりと、あからさまな行動を起こすタイプだ。

 こうやってどちらか分からない時は、大抵満更でもないという気持ちの時なのである。


「じゃ、行ってくる」


 軽く手を振って教室を出ると、小走りでトイレの方へと向かった。

 漏れそうという訳では無いが、昨日の放課後に教室で待たせすぎたことで、紅葉はまだ少し怒っている。

 その実は『自分を置いて帰ったのでは』という不安からくるものだと思うが、それを重ねてスネスネ星人になられても困る。

 そういう考えがあってこそのダッシュだったのだが、傍から見れば漏れかけだと思われていたかもしれない。

 用を足しながらそんなことを思いつつ、手を洗って外へ出ると、ふと聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「また、ですか?」

「お願いしますよ、麗子様」

「私たち困ってるんですよー」

「ウチらを助けると思って!」


 こっそり片目だけを覗かせて確認すると、そこに居たのは麗子と取り巻き三人組。

 話を聞く限り何かを頼んでいるようだが、麗子の方は随分と困り顔だ。

 と言っていることから、以前にも同じことをお願いされたことがあるのだろう。


「わかりました、仕方ありませんね」

「さすが麗子様!」

「太っ腹!」

「助かる!」


 彼女は渋々と言った様子で頷くと、三人が差し出したデバイスそれぞれに自分のデバイスをかざしていく。

 あれは確か紅葉が教えてくれた『学徒ポイントを送る方法』のひとつだ。

 遠隔で送る時は相手を選んで送信出来る。こちらはいつも紅葉がやっている方法で、もうひとつは画面に表示させたQRコードを読み取るという方法。

 前者は両方が友達登録的なものをしていないと出来ない。わざわざ後者の方法を選ぶということは、麗子か取り巻きかのどちらかが友達登録をしていないということなのでは無いだろうか。


「それじゃ、また頼むねー!」

「これで最後にして下さい」

「ええ、麗子様のケチィ」


 唇を尖らせながら立ち去っていく三人組は、瑛斗が隠れていることに気が付かないまま歩いて行ってしまう。

 その去り際、微かに聞こえた「これっぽっちか」という呟きで、彼は麗子たちの関係の真実を理解した。

 てっきり彼女らは仲がいいから一緒に居るのだと思っていたが、ポイントを貰うことが目的で近付いていたということだ。

 そう考えれば、やけに麗子の守りが硬かったことも、低ランクの彼女らがS級の麗子と毎日話せている理由にも納得がいく。


(なるほど、そういうことだったのか)


 心の中でそう呟いた瑛斗は、深いため息を零した麗子の方を確認する。

 彼女の表情は暗く、瞳は床を見つめている。普段とは真逆のオーラを放ったまま、ゆっくりと歩き始めた彼女を見て見ぬふりすることは出来なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る