第14話 互いの認識のズレ
勉強会を始めて少し経った頃、問題集の課題とされているページを全て解き終わった
どうやらお疲れの様子らしい。何せ、十数ページを一気に解いたのだから。
ちなみに、
おそらくこれが一般人の普通であって、この二人が異様に頭がいいと言うだけの話。さすがはS級認定されるだけのことはある。
しかし、わざと手を抜いて頼るという作戦のはずが、全力でやっても叶わないとなると、彼の僅かなプライドにも少し傷が付く。
ここは何かいい感じに誤魔化せないだろうか。調子が悪かっただとか、眠気が襲ってきただとか……。
そんなことを考えていると、手元を覗き込んで来た紅葉が「はぁ?」と声を漏らした。
「あなた、まだそこやってるの?」
「前に通ってたところより随分先に進んでるみたいなんだよ」
「ランクが低いんだから、テストでくらいポイント貰わないと。私だっていつまでも面倒見てあげられるわけじゃないんだから」
「え、見てくれないの?」
「っ……だって、ペナルティが消えたら話しづらくなるでしょ。そしたら瑛斗だって……」
ふいっと逸らされた視線が全てを物語っている。紅葉は獲得ポイント数が元に戻れば、彼が話してくれなくなると思っているらしい。
確かにS級とF級では格が違いすぎるが、瑛斗はてっきりこれまでもこれからも良好な関係を築けていけると思っていたのだけれど。
あちらはそうではなかったということだろうか。それは初めこそ利用目的で近付いていた彼としても、少しばかり寂しくなる話だ。
「紅葉にとって僕は犬かなにかだったってこと? ポイントという餌を与えて懐かせるペット」
「そ、そんな風に思ってないわよ!」
「僕もポイントのために話してると思われたくないし、いっそ関わるのやめちゃおうかな」
「えっ……」
瑛斗の言葉に、紅葉の顔からあからさまに血の気が引いた。けれど、素直になれない彼女はそれを誤魔化そうとする。
「……そうね、やめてもいいわよ。私は別に困ることなんてないし」
潤んだ瞳を見せないように背けながら、必死に絞り出した声で強がる。
我ながら性格が悪いとは思いながらも、彼は紅葉のこういう顔が好きだ。本人には絶対に言えないけれど。
「冗談だよ、紅葉」
「……へ?」
「僕がポイントのために紅葉と仲良くしてるって思われたことに対する仕返し。そんなことないのに酷いよ」
「ご、ごめんなさい……」
「ポイントが貰えなくても、僕は紅葉と友達で居たい。会話が出来ないなら隣に座ってくれるだけでもいいからさ」
「……瑛斗」
全部嘘じゃない。瑛斗は探しているS級女生徒が紅葉ではないと確信した上で、彼女の境遇を妹と重ねてしまったのだ。
他者からの危害によって貶められる。それは、どれほど社会が荒んだとしても許されることでは無い。
支えたい、助けたいという気持ちはお人好し過ぎるのだろうか。
「ぐすっ、疑ってごめんなさい……」
「泣かないでよ。僕もちょっと意地悪し過ぎた」
「本当よ。すごく傷ついたんだから」
「それはお互い様だけどね」
「むっ」
クスリと笑いながら言った言葉に、ムスッと不満げな顔を見せた紅葉の目元をティッシュで拭ってあげる。
それが嬉しかったのか、彼女は子供っぽい無邪気な笑みを浮かべた後、ハッとしたように再びしかめっ面に戻った。
「何かご不満?」
「……私、別に瑛斗しか友達が居ないから喜んだわけじゃないわよ」
「そんなこと思ってないけど」
「絶対思ってたわ、顔に書いてあるもの」
「じゃあ、拭き取ってくれる?」
ジョークのつもりでティッシュを差し出したら、「そういうことじゃないっ!」と叩き落とされてしまった。
紅葉のツンデレは実に情緒が不安定だ。ずっとデレていてくれれば、幾分か落ち着いて過ごせそうなのだけれど。
「僕は紅葉の友達一号になれて嬉しいよ」
「っ……ばか……」
素直に言われると赤くなって何も言えなくなってしまう様子も好きなので、ツンも必要だなと思う瑛斗であった。
「あの、そろそろ勉強再開しませんか?」
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