第13話 家にはそれぞれのルールがある
約束の放課後、
ただ家に来るというのも何をすればいいか分からないので、話し合った結果今日はテスト勉強をすることに。
中間テストも間もなく始まる。出題傾向を理解している麗子がしっかり教えてくれるらしい。
「あの、
「どうかした?」
「ひとつお聞きしてもよろしいでしょうか」
「なんでも聞いて」
「では遠慮なく」
彼女はそう言いながら隣を歩く瑛斗……の更に向こう側を覗き込むと、そこにいた人物を見てあからさまに不満げな目をした。
「どうして
「紅葉も一緒に勉強してくれるって言うから」
「私は二人で話せると思っていたのですが……」
「そう言わないでよ。紅葉が泣いちゃう」
「泣かないわよ! というか、友達なんだから怪しい相手を警戒するのは当然でしょ」
「まるで浮気を警戒する彼女ですね」
「か、かのっ……?!」
麗子の言葉に紅葉は顔を真っ赤にすると、俯いて喋らなくなってしまった。
そんな姿を横目で見つつ、瑛斗は馴染みのある一軒家の前で足を止める。
「ここだよ」
そう言って指差したのは、ごくごく普通の一軒家。眺めていても面白いことは無いので、早速中に入ってもらうことにした。
「どうぞ」
「お邪魔します」
「お邪魔するわ」
二人ともお辞儀をしてから開けたドアから中へ入ると、靴を揃えて家に上がる。こういう細かい行動から育ちの良さを感じられた。
「なかなかいいお家ですね」
「白銀さんからしたら窮屈かもしれないけど」
「そんなことはありません。むしろ、無駄に広くなくて落ち着きます」
「それなら良かった。広い家が嫌になったら来てくれていいよ」
「ふふ、ありがとうございます」
そんな話をしながら二階にある自室へ案内しようとすると、ふと目が合った紅葉になんだかよそよそしく視線を逸らされる。
思い返してみれば靴を揃える時にも少し手こずっていた気がする。緊張しているのだろうか。
「どうしたの、紅葉。ソワソワして」
「し、仕方ないじゃない。男の子の家に来るなんて初めてなんだもの」
「人様の家に入るのも初めてなのでは?」
「白銀 麗子……!」
「はいはい、僕の家で喧嘩しない」
瑛斗はそう言いって二人の間に割って入り、仲裁しながら麗子の背中をさりげなく押して先に階段を登ってもらう。
きっと二人は磁石なのだ。常に反発し合って、近付きすぎるとくるりと極をひっくり返してバチンとぶつかる。
つまり、近付けさえしなければ喧嘩も起こらない。故に瑛斗の手間が減るのだ。
「上がって左に曲がった一番手前のドアだよ」
「手前ですね。……あら、あちらは?」
部屋のドアに手をかけた麗子は、奥にも扉があることに気がついて首を傾げる。
そのドアに何かが貼り付けられているのが見えたのだろう。確認しようとする彼女を、瑛斗は腕を掴んで引き止めた。
「そっちには行かないで」
「え、あ、すみません……」
「言ってなかった僕が悪いよ。あっちは入ったらダメな部屋なんだ」
「そんなのですね、覚えておきます」
「ありがとう」
心做しか少し重く感じる彼の声に、麗子は小走りで引き返す。
そして首を傾げている紅葉を一瞥した後、瑛斗が開いてくれた扉から部屋へと入った。
「まあ、これが狭間さんのお部屋……」
「瑛斗の部屋……」
彼女たちは入室するなりキョロキョロと見回すと、「好きなところに座って」という言葉に机を囲むようにして腰を下ろした。
瑛斗も同じように腰掛けると、数学の問題集を取り出して広げる。
仲良くなることが目的とはいえ焦ってはいけない。まずは勉強をするというテイで頼って距離を縮めるのだ。
彼が心の中でそんなことを呟いているとは知らず、二人もせっせと準備を始めるのであった。
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