第12話 立ち止まりません、勝つまでは

 パンケーキを食べに行った数日後、相変わらず自分の席でぼっちライフを送っている紅葉くれはの元へ瑛斗えいとがやってきた。

 お昼ご飯に誘うためだ。

 ただ、彼女に声を掛けると同時に、別の人物が瑛斗に声を掛けてきた。

 誰も近付こうとしない自分に話し掛けるなんてどんな変わり者かと振り返ってみれば、背後にいたのは他でもない麗子れいこではないか。

 ここしばらく前にも増して避けられていたような気がしていたが、今更話しかけてくるとはどんな気の変わりようなのだろう。


狭間はざまさん、お昼ご一緒しても?」

「え、あ、うん。別にいいけど」

「ありがとうございます」


 彼女はこちらを見つめている三人の取り巻きたちに手を振ると、近くのイスを引っ張ってきて紅葉の机にお弁当箱を乗せた。


「……何よ、白銀しろかね麗子れいこもここで食べるわけ?」

「あら、いけなかったでしょうか」

「瑛斗からポイント根こそぎ奪っておいて、今更なんのつもりかしら」

「あれは仕方の無いことです。嫌なことをしたらし返される、当然ですから」

「だったらその場で説明してあげなさいよ!」


 怒鳴るような声を上げながら勢いよく立ち上がる紅葉を、麗子は笑顔ながらもどこか冷たい目で見つめる。

 瑛斗はそんな二人の間に割って入ると、今にも暴れ出しそうな紅葉の頭を撫でてあげた。


「僕は大丈夫だから。とりあえず話を聞こう」

「……あなたがそう言うなら」

「飼い慣らされてますね」

「白銀 麗子!」

「どおどお。白銀さんも刺激しないで」


 以前盗み聞きしてしまった会話から、二人の関係はそう悪くないと思っていたが、どうやらその考察は事実と正反対だったらしい。


「紅葉、どうしてそんなに喧嘩腰なの」

「それは……」

「私から説明しましょう。東條とうじょうさんが私を睨むのは、私が彼女を暴力事件の犯人に仕立て上げたからです」

「……なんだって?」

「正確には、仕立て上げたと勘違いしているからですが。私はそんなことしていません」

「嘘よ! だって、私に殴られたって言ったのはあなたの取り巻きたちじゃない!」

「知らないと言っているでしょう? 私に関係の無いことを聞いてる暇はないんです」


 麗子はそう言って冷たくあしらうと、途端に笑顔になって瑛斗の方を向いた。


「そんなことより、私考えたんです。狭間さんに言われた言葉について」

「家に行きたいって話のこと?」

「ええ。あの時は怒ってしまいましたが、よくよく考えれば狭間さんからは他の方のような卑しい気配がしなかったなと」

「そう言って貰えるのはありがたいけど……」

「やはり父がいい顔をしないので家に招くことは出来ません。ただ、私が赴くことは出来ると思うんです」


 彼女が言っていることの意味が、瑛斗には一瞬理解出来なかった。

 家に来てはいけないけれど、行くことなら出来る。麗子は確かにそう言ったのだ。


「それはつまり……?」

「狭間さんのお家にお伺いしても宜しいですか? 無理にとは言いませんが」


 彼の目的はS級の女の子と仲良くなること。半ば諦めていた麗子から言い出してくれるなんて、これは願ってもないチャンスだ。

 しかし、紅葉はこの行動をよく思っていないようで、ブンブンと首を横に振っている。


「ダメよ、瑛斗。どうせ、またポイントを奪うつもりだわ」

「そんなことはしません。私は狭間さんに興味があるんです」

「興味?」

「はい。仲良くなってもいないのに、突然家に行きたいなんてことを言い出す変わり者なあなたを知りたいと思いました」

「……なるほどね」


 確かに紅葉の言う通り危険なのかもしれない。けれど、だからと言ってここで諦めたら、転校してきた意味を捨てることになる。

 それでは手助けをしてくれた叔父さんにも、妹にも合わせる顔がない。だから。


「いいよ、いつが空いてる?」

「今日の放課後はどうでしょう」

「分かった、決まりだね」


 立ち止まらない。彼は心の中でそう決めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る