第6話 久しぶりに会ってもなんだかんだお互いを認識できる
今のところ判明しているのは紅葉の他に、隣の席の
直接聞くことも出来るが、そんなことをすれば怪しまれてしまう可能性もあるし、無鉄砲ではいくらあってもポイントが足りない。
ヒモ男のように紅葉にばかり甘えてもいられないため、ここは新たな計画を用意する必要があるのだが――――――――――。
「あ、
そんなことを考えながら廊下を歩いていると、向かい側からやってきた人物が彼の名前を呼びながらスカートを揺らして駆け寄ってくる。
この学園で自分を知っている人物なんてほとんど居ない。それも、ここまでキラキラとした笑顔で来てくれる相手は居ないはずだが。
「ん?もしかしてカナ?」
「もしかしなくてもカナだよ!」
会うのは瑛斗が卒業して以来になるが、まさかここに入学しているとは思いもしなかった。
「それにしても、前に会った時より可愛くなったんじゃない?」
「一応自分磨きはしてるからね。したくてしてる格好じゃないけど」
「やっぱりまだ慣れない感じ?」
「慣れたくないよ、恥ずかしいもん」
カナは確かにスカートを履いている。制服は女子生徒用のものを身に付けているし、見た目だって女の子そのものだ。
だが、彼女は……いや、彼は正真正銘男。証明する為にと、強引に胸を触らせられたことがあるから間違いない。
カナの両親は少し変わった人たちで、昔からおかしなことばかりする傾向があったらしい。それが中学に入る少し前、彼にまで飛び火してしまったんだとか。
「ていうか、この階って二年生の教室しかないよね。一年生のカナがどうしてここに?」
「転校生が来たって聞いたからさ。その特徴に覚えがあるなと思って」
「僕を探しに来てくれたんだ?」
「ま、そんなとこ♪ でも、まさか本当に先輩だったとは。また同じ学校に通えて嬉しいよ!」
「僕も会えて嬉しい。学年は違うけど、何かあったらよろしく頼むよ」
そう言って手を差し出すと、カナは握ろうとして直前で止まる。
一体どうしたのかと首を傾げると、彼はあははと苦笑いしながらデバイスの画面を開いてこちらに見せてきた。
「つい忘れちゃってたけど、先輩ってまだF級だったよね。私と握手は危険じゃない?」
表示された数字を確認してみると、最初に声を掛けた時にカナから瑛斗に支払われた額が10ポイントであるのに対し、握手を求めた際に払われたのは200ポイント。
もし成立してしまっていたら、この倍以上取られていたかもしれない。そうなれば言うまでもなく、瑛斗のお財布はすっからかんだ。
「待って、カナってまさか……」
「S級だよ。よく分からないけど、学園に認めてもらえたみたい」
「それを先に言ってよ」
「先輩に会えたのが嬉しかったんだもん」
口先を尖らせながらそう言う彼は、この一年と少しの間に成長しているけれど、やっぱりあの頃と変わらず可愛い後輩のままだ。
彼なら妹とも面識があるし、そもそも厳密には女子では無いので、目的の枠から外して考えても大丈夫だろう。
無論、情報が漏れる可能性はなるべく減らしておきたいので、事情を伝えるとしてももう少しあとになるだろうけれど。
「そうだ。先輩に友達申請しよっか?」
「申請って、ポイントなしにするやつだっけ」
「そうそう。お互いに申請したらポイントを使わずにアクションを好きなだけ起こせるの。このデバイス、何でもかんでも検知しちゃうからね」
カナは周囲を見回した後、背伸びをして瑛斗の耳元に口を近付けると、「若い二人が体を重ねる時とか、ね?」と甘い声で囁いてきた。
「確かにそれは検知されたら困るね」
「不純異性交友を報告するようなものだし」
「でも、僕たちは別にそういうのじゃないよ?」
「分かってないなぁ。男同士の恋愛なんて、今時珍しくないんだよ?」
「カナは僕とそういうことしたいの?」
「な、何言っちゃってるの?! 例えばの話だってば、例えばの話!」
「そうだよね。良かった、本気で悩んじゃうところだったよ」
「……悩むだけならタダなんだけど」
ボソッと零れた言葉を聞き返そうと開かれた瑛斗の口は、「じゃ、考えといて!」と走り出す彼の背中を見て閉じられる。
今日は少し顔を見に来ただけなのだろう。また今度、ゆっくり話をする時間でも作ってもらえるだろうか。
「ああ、でもポイント貯めないとか」
後輩と偶然会って世間話をするだけでもポイントが必要だなんて、やっぱりこのシステムはどう考えても異様だ。
彼は心の中でそんなことを考えながら、「瑛斗」と名前を呼ぶ聞き慣れた声に振り返る。
「さっきの子は?」
「後輩。中学以来の再開だよ」
「そんなドラマみたいなことあるのね」
「僕もびっくりした」
こうなったら残りのポイントを全部使って博打に出よう。紅葉と談笑しながら、密かにそう決める瑛斗であった。
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