第5話 例え世間が彼女を憎んでも
「
「何よ」
「呼んでみただけ」
「ポイントの無駄ね」
そんなこんなで中を深めつつある
紅葉に関しては言うまでもなく、冤罪であるにしても暴力を振るったという噂が流れていることは事実だ。
そのペナルティでポイントの獲得を減らされている彼女にF級が近付けば、甘い蜜を吸おうとしていると思われても仕方が無いのである。
しかし、紅葉にそんなことは関係ない。と言うよりも、これまでと何も変わらないと表現するべきかもしれない。
むしろ彼女にとっては、話せる相手が一人増えただけでもプラス。好転しているとも言える。
ただ、瑛斗にとってもそうとは限らない。何せ彼の目的はより多くのS級女生徒と親睦を深めてお近付きになることなのだから。
自分まで暴力的な人間だなんてことを言われたなら、目標から遠ざかってしまう。
それでも瑛斗が紅葉から離れようとしないのは、彼女が悪人ではないと感じているからかもしれない。
「紅葉、学校は楽しい?」
「急にどうしたのよ。休日の父親みたいなこと聞いちゃって」
「話すようになって数日が経ったけど、最初より口数が増えたなと思ってさ」
「べ、別に前は話す相手がいなかっただけよ。って何恥ずかしいこと言わせてるの!」
「自分で言ったくせに」
少し怒りっぽいところもあるものの、それも紅葉の個性だと思えばなんてことはない。
たまに背中を軽く叩かれたりはするが、その度にやってしまったという顔をする辺り、冤罪のことは相当ショックだったようだ。
いくら他のS級を探すためとは言え、そんな女の子を見捨てる訳には行かないだろう。無論、自分に得があるからこその優しさではあるが。
「そう言えば、紅葉はどうやってポイントを稼いだの? 普通に過ごしててあんなに稼げる?」
「定期的にランク測定があるじゃない。S級はランクを維持するだけでそれなりのボーナスが出るのよ」
「なかなかなれる物じゃないもんね」
「そう。だから私はすごいのよ」
「褒めて欲しい?」
「……別に」
素直じゃないなと思いながら「えらいえらい」と頭を撫でてあげると、紅葉は満更でもなさそうに頬を緩める。
しかし、すぐにハッとしたようにその手を払うと、「嬉しくなんてないから」と顔を背けてしまった。
こういうことはもう何度か経験している。きっと彼女は、自分の気持ちに素直になれないタイプの人間なのだろう。
だから寂しいだとか、助けて欲しいなんて言葉を口にすることが出来ずに孤立した。
新入りの瑛斗に対しては、まだ敵意を持っていなかったからなのか弱いところを見せてくれはしたけれど。
でも、彼女を見る度に思う。一人の女の子に孤独を感じさせてしまうような制度は、本当に存在していいものなのかと。
そんなことを考えていると、学園デバイスの画面から顔を上げた紅葉がこんなことを聞いてきた。
「そう言えば瑛斗、ポイントは大丈夫なの?」
言われてみれば、最初に1000ポイントがあるのを確認してからの増減をあまり気にしていなかった。
紅葉との会話では確かにこちらから話しかけることの方が多かったし、収入と支出に偏りがあってもおかしくは無いと思うが……。
「あ、結構減ってる」
まだ数日しか経っていないと言うのに、所持ポイントは半分以下になっているではないか。
これはつまり、紅葉よりも瑛斗の方が倍以上喋っているということになる。ポイント的にも交友的な意味でも宜しくないだろう。
「……私が分けてあげてもいいわよ?」
「え、それは悪いよ」
「あなたが私から貰うって言ったんじゃない」
「あれは冗談のつもりだったんだけど」
「いいから受け取りなさい、S級命令よ」
彼女はそう言うと、強引にポイントの取引申請を送ってきた。確かに無くなって困るのは自分だし、そう言って貰えるなら有難く受け取る以外の選択肢はない。
そんなことを考えながら申請を許可した瑛斗に、紅葉が呟いた「話せなくなったら……」と言う呟きは届かなかった。
「ありがとう、紅葉」
「足りなくなったら私を頼ればいわ。だけど、あまり無駄遣いしないこと」
「紅葉との会話は無駄じゃないからOKだね」
「……そういうところ、ムカつくわよ」
何だか不機嫌そうに顔を背けられてしまったけれど、きっとこれもツンデレなのだと思う。
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