第2話 同じランクと仲良しこよし

 入学前に学園長から聞いた話によると、学徒ポイントとやらは生徒の様々な行動で加算される機会があるらしい。

 例えば、ボランティアに参加したり、困っている人を助けるなど人の役に立つこと。

 他にも、まだ世にないものを作ったり、賞を取ったり、大会で優勝したりなどアクティブな成果を成した生徒にもポイントが与えられる。

 しかし、それらは大したポイント数にはならない。何故なら、ポイントは交友格付け制度の元に存在するものだから。

 学園や交友に関係の無いことには、あまり高いポイントは付かないのである。

 逆を言えば、学園や交友に関係があるのであれば、大したことでなくても大量のポイントが手に入るということ。

 その中でも生徒たちが注目しているのは、『定期テスト』と『交友力測定』の二つ。

 前者は言うまでもなく、成績に応じてポイントが与えられるというもの。成績はランク測定にも大きく関わるため、皆必死に取り組む。

 そして後者に関しては珍しい行事だろうが、友人の数が多い……つまり、交友力が高い人にポイントが与えられる。

 無論、ポイント稼ぎのために偽の友人を集めることは出来ない。例の測定機が友人でないと判断した場合、所持ポイントの半分が没収されてしまうからだ。

 人の心の内まで測定するとは、一体どんな恐ろしいシステムを開発しているのだろう。考えただけで身震いしたくなる。


(どの道、次の中間テストまではポイントは手に入りそうにないか)


 ボランティアはもちろん、その他の活動でもすぐにポイントがもらえる訳では無い。

 S級の女生徒と仲良くなるには相当なポイントが必要になるだろうし、二大イベント以外での稼ぎはまさに雀の涙だろう。

 とりあえずは今あるポイントで、この学園の情報を効率的に入手する他ない。

 何はともあれ、今必要なの友人よりも教科書だ。右隣がダメなら角席は前しか隣接した相手が居ない。

 幸いなことに察してくれた向こうから声を掛けてくれたので、ありがたく机を移動させてもらった。


「私、前田まえだって言うの」

「前田さんね、ありがとう」

「転校生ってことはF級だよね。ランクが同じ内は仲良くしてくれると嬉しいな」


 前田さんはそう言いながらにっこりと微笑んでくれる。この学園のルールでは、ランクが同じならポイントのやり取りは行われない。

 つまり、文無しになりたくなければ彼女のような同類を頼るのが一番ということだ。

 確かに彼女なら優しそうであるため、聞けば色々と教えてくれそうではある。ただ、F級からS級の情報は引き出せないだろう。

 少なくとも悪意は感じないため、普通の友人という関係を目指せれば良いかもしれない。

 このクラスの人間関係なんかも、教えてくれる相手が必要になるだろうから。


「ねえ、前田さん」

「どうかした?」

「このクラスに怖い人っている?」

「怖い人かぁ。F級の私にはみんな怖く見えるかな。あ、転校生くんは怖くないよ?」

「ありがとう。そう見えてるなら良かった」

「……?」


 瑛斗の意味深な物言いに首を傾げる前田さん。しかし、彼が彼女の疑問に答えることはなく、その後は静かに授業を聞くのであった。

 現状、肝となるのは1ヶ月も残っていない中間テスト。そこで結果を残してポイントを稼げれば、誰か一人に近付くことくらいなら出来るかもしれない。

 そのためには勉強だ。一点でも高い点数を取るため、今はひたすらノートに大事な箇所を書き込み続けるのであった。


「す、すごい熱意。勉強が好きなんだね……」


 前田さんには少し引かれたような気もするが、その程度の代償は安いものだと割り切るしかない。

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