第1話 格差の住人
「挨拶、頑張って下さいね!」
教室の近くへやってくると、担任教師だと言う
なかなか若くてぽわぽわとした雰囲気の先生だが、こんな学校で働いているということは優秀な方ではあるのだろう。
エールを受けた
「自己紹介をお願いできますか?」
「はい。
自己紹介をしてみたが、あまりいい反応とは言えない。むしろ悪い方なのだろうか。
それはそうだ。この学園では自分磨きが大切だが、時には他の者を蹴落としてランクを上げる時もある。
たとえ新入りが誰であろうと、敵という一面を持っていることに変わりは無いのだ。
「じゃあ、狭間くんはあそこの空いてる席に座って下さいね」
先生にそう言われ、一番後ろの窓側の席へと向かう。クラスメイトは悪い人のようには見えないが、この中にも居るはずだ。
瑛斗が探しているS級の女生徒が。
「それじゃあ、ホームルームは終わりです。一限目頑張って下さいね」
綿雨先生がそう言って小走りで教室を出ていくと、入れ替わりで別の先生が入ってきた。一限目を担当する教員だろう。
クラスメイトたちは教科書を机の上に準備するが、実のところ瑛斗はまだそれを持っていない。
急な転校だったというのもあるが、何より隣の席の人に話し掛けやすい場面を作れるという利点があるから急がなくていいと学園長に伝えたのだ。
「あの、教科書を見せてもらえないかな」
彼はそのチャンスを活かすべく、隣の席の女の子に声を掛けてみる。
彼女はぴくりと反応したように見えたものの、待てど暮らせど返事はしてくれない。
ただ、もう一度同じことを口にしてみると、今度は困り顔でこちらを振り向いた。しかし。
「私、S級なので。転校生さんにはポイントが高すぎると思いますよ……」
そう言うと、再び顔を背けてしまう。
彼女の言うポイントとは、交友格付け制度において最も重要な存在。他者に対してアクションを起こす時、その内容に応じて起こす側が起こされる側に支払う通貨のようなもの。
友達に話しかけるのにもポイントが必要だなんて、これではまるでゲームの世界だ。本当に馬鹿げている。
瑛斗は心の中でそう呟きつつ、申し訳なさそうな顔をする彼女から離れると、胸元で震えた学園デバイスを取り出して通知を確認した。
どうやら、他者とポイントのやり取りがあった時には通知される設定らしい。
声を掛けたことで会話と認識されたのだろう。おかげで彼女の名前が『
(S級、か……)
瑛斗の目的を果たすためには、是非とも仲良くなっておきたい人物だ。
ただ、今強引に行っても難しいだろう。優しさで拒んでいるであろう表情を見るに、悪い人という訳では無いだろうし。
と言うのも、この学園には先程から言っているランクというものがある。上からS・A・B・C・D・E、そして一番下が瑛斗の属するF級。
これらのランクは入学時に測定され、その後成績や才能などのステータスの値が変化することによって、定期的なランク測定の際に上下する。
賞を取ったり、誰か偉い人からの推薦なども考慮されるが、基本的には国から支給されている測定機でパパッと測るようだ。
そして、アクションを起こす相手のランクが自分より高ければ高いほど、支払うポイントの数も増える。
逆に相手のランクが自分より低ければ、安くおしゃべり出来るというわけだ。
(確かに、所持ポイント1000だとS級との会話は数言しか話せないか)
瑛斗は心の中でため息を零すと、流し読みしたポイントのシステムについて書かれた画面を閉じて顔を上げた。
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