第3話 昼食時の日陰者
あれからしばらく授業を受け、何度目かのチャイムで生徒たちはそれぞれ移動し始める。
先程の授業が四時限目。つまり、次は昼休み……昼食を食べる時間だ。
「ありがとう、また今度お願いするよ」
なるべく優しく見える笑みを浮かべながらそう言って、彼は弁当箱片手に教室を出た。
前田さんのグループの人から情報を聞き出すという手もあったが、会話出来ているということはおそらく全員が低級だろう。
それなら、そちらの線も完全には切ってしまわないまま、今は他の手を探した方が効率がいい。利用しているようで申し訳ないが。
「……ん?」
校舎を出て少し回り込んだ場所。コの字型の校舎の中に作られた薄暗い中庭。
創作ならこういう場所に人が居るものだと試しに覗いて見たが、そこには本当に人が居た。
彼女は確か、同じクラスにいた女の子だ。赤色のツインテールが目立っていたから印象に残っている。
しかし、こんな場所でひとり寂しく昼食とは、何か事情があるとしか思えない。
(面倒な人間だってのは間違いない。少なくとも情報は落ちないし、関わらない方がいいか)
心の中でそう呟いて立ち去ろうとした彼は、不覚にも足元にあった枝を踏んでしまう。
バキッと折れる音はやけにこの場所に響き、赤髪の彼女はこちらの存在に気が付いた。
「なっ?! い、いつからそこにいたのよ!」
「……ついさっき」
「どうせぼっちだって笑いに来たのね。そうよ、寂しくご飯を食べる可哀想な女よ!」
「別にそんなこと思ってないけど。そもそも、僕もここで食べようと思って来たんだから」
「そ、そうなの?」
やはり面倒臭いタイプだ。ここは理由を付けて逃げるべきかもしれない。
その方法を考えていると、ポケットの中で学園デバイスが短く震えた。目の前の彼女との会話でポイントやり取りが行われたのだろう。
試しにどんな人物か確認しようと取引相手の詳細を開いてみる。その瞬間、瑛斗は思わず驚きの声を漏らしていた。
「え、S級……?」
こんな暗い場所で昼食を食べる生徒がS級。何かの間違いではないかと疑ってしまうほど異様だが、何度確認しても情報に訂正はない。
しかし、だったらどうして彼女はぼっちなのだろう。この学園では高いランクの人間が蹴落としに巻き込まれることはあると言うが、それでも一人くらい友人がいてもいいはずなのに。
「そうよ、私はS級。すごいでしょ、褒めてくれてもいいのよ」
「いや、褒めないけど」
「F級のくせに随分と生意気ね」
「そっちこそ、S級の割に――――――――」
そこまで言いかけてハッとする。他人に対するアクションにはポイントが支払われる。
S級とこれだけ会話していると、かなり消費されているのではないかと焦ったから。
しかし、慌てて画面を確認してみたところ、意外なことにポイントはほぼ変動無し。
S級とF級の差であれば、間違いなく前者が手に入れるポイントの方が圧倒的に多いはずなのに。
不思議に思っていると、その気持ちを察したらしい彼女がバツが悪そうに教えてくれた。
「私、今ポイントをほとんど獲得出来ないのよ」
何かワケありそうな表情を見せる彼女に、瑛斗は外向きだったつま先を向け直す。
巻き込まれるのはゴメンだが、学園の情報を聞ける機会であることに変わりはない。
話くらいは聞いておいても損はしないだろう。心の中でそう呟いて、事情を話してもらうことにした。
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