第611話
1月も後半に入り、約束のバレンタインデーまでは20日を切った。
そんな付き合っているのかどうかも曖昧な期間、僕からの告白を受けた
まるでこれは自分のものだと言わんばかりに、近付く者全てに目を光らせて。
「
「当たり前でしょ?! 授業中は隣の席のあなたが何してるか分からないんだもの」
「ふふふ、何してるんでしょうね?」
「っ……
「分かってるよ。でも、それはつまり僕たちはもう付き合ってるってことでいいの?」
「ま、まだよ!」
待たされた分、自分も待たせる。その意思は硬いらしいけれど、もうほとんど答えは言われているような気がしないでもない。
僕が心の中でクスリと笑っていると、顔を赤くする紅葉へ見せつけるように
「ということは、まだ瑛斗さんは誰のものでもないということですよね。でしたら、私とデートしましょう!」
「なっ?! そんなのダメよ、裏切りよ!」
「恋愛とはそういう勝負、ではありませんか?」
「ぐぬぬ……」
まだ付き合ってないと言ってしまった手前、デートを阻止するのに都合のいい言葉が出てこないらしい。
紅葉は悔しそうに唸ると、何とかしなさいと言わんばかりの目でこちらを見つめてくる。
それを察した僕は、引っ付いてくる麗華をそっと引き離そうとしてやっぱりやめた。いいことを思いついてしまったのだ。
「そうだね、せっかくだから行こうかな」
「はぁ?!」
「本当ですか? 嬉しいです!」
彼女が僕のことを待たせるというのなら、逆に返事をすることを待ちきれない状態にしてしまえばいい。
ここはあえて話に乗って見せることで、紅葉の気持ちを急かそうと考えた。
麗華もそれを分かってくれたようで、ここぞとばかりに密着してくる。さすがにちょっとやりすぎな気もするけれど。
「では、ネズミーランドを貸切にしましょう!」
「そこまでしなくていいよ。ものすごく高く付きそうだし」
「私の貯金だけで、2年半は他の誰も立ち入れないように出来ますよ?」
「それはそれでちびっ子と女子中学生が泣くからやめてあげて」
「そうですか。でしたら、ショッピングモールを丸ごと買い取りましょう!」
「一旦、お金を使う考えから離れようか」
僕だって何時間も並ぶのは好きじゃないし、人混みだって得意ではない。けれど、そうあるべき場所の人の多さは、逆に楽しい時間を作り出す調味料にもなっているとは思う。
アトラクションに乗る前の待ち時間だったり、スイーツ店で出てくるまでの時間だったり。そういう隙間は、いつだってお互いをよく知るための会話に使えるのだから。
まあ、僕と麗華だったら、よく知る必要はもうあまり無いかもしれないけどね。知るべきなのは
……そう言えば、麗華さんと
きっと大丈夫だよね。二人とも、F級の僕と違ってランクが高いんだから。
「……」
「紅葉、付き合ってくれる気になった?」
「ふ、ふん、まだまだね!」
「じゃあ、麗華と二人でお出かけして来ようかな」
「……うぅ」
その後、意地悪をし過ぎて目を潤ませ始めた彼女に謝り、麗華の同意も得て3人で出かけるのならとお許しを貰ったことは言うまでもない。
紅葉の涙には勝てる気がしないし、きっとなんだかんだバレンタインまで返事を待つしかないんだろうなぁ。
そう心の中で呟きつつ、下げられた頭をペチペチ叩いてくる彼女の楽しそうな表情に少し安心した僕であった。
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