第607話
「ねえ、ノエルさん」
「どうしたの、
「なんだか最近、
「……その状態のあなたが言うんだね」
麗華の問いかけに、ノエルは彼女に引っ付いている
先程から……いや、毎日のように何を言うでもなく、ただただ妹に引っ付きに来るのだ。
なんと指摘すべきかみんな悩んでいたのだけれど、ついつい反射的に本音がこぼれてしまった。
「私はおかしくないよ。大好きな妹と一緒にいたいと思ってるだけの、健気なお姉ちゃんだもん!」
「まあ、邪魔しないならなんでもいいけど。それより、確かに2人の様子が変だよね」
「ノエルさんもそう思いますか。私、2人に何かあったんじゃないかと睨んでるんです」
「麗華ちゃん、睨むと目付き悪くなっちゃうよ?」
「お姉ちゃんは黙っていて下さい」
「……うぅ、嫌われた」
瑛斗のことになるとついつい前のめりになってしまって、突き放すような言い方で麗子を悲しませてしまう。
と言うよりも、麗子が簡単に嘘泣きをするせいで、麗華も放っておけなくなってしまうのだ。
本当は泣いていないと分かっていても、大好きな姉を無視することは心苦しいから。
なので、しっかりと『嫌いになってない』と伝えて慰めてから、ノエルとの話に軌道を戻させてもらう。
「ずっと一緒にいた私には分かります。瑛斗さんが視線を東條さんに向ける頻度が上がっているんです」
「歩く時の距離も少し離れてるよ。前は肩が触れるほど近かったのに」
「うんうん、それはお姉ちゃんもおかしいと思う」
「これらのことから考えられることはただひとつ」
「あの2人、まさか……?」
麗華の言葉に目を丸くするノエル。彼女たちは目を合わせると、ゴクリと唾を飲み込んだ。
そして、今現在も継続して起こっているであろう事柄について呟く。
「「喧嘩、してる……?」」
瑛斗が紅葉のことをよく見ているのは、彼女のことを気にかけているから。それはつまり、伝えたい何かがあるということ。
歩く時の距離が離れているのは、お互いに無用な触れ合いが起きたせいで喧嘩が再勃発することを防ぐためなのではないか。
2人はそう考えたのである。全く見当違いな考察をしているとは夢にも思わないまま。
「このまま喧嘩して、仲違いでもすれば私たちが有利になりますね」
「私と麗華ちゃんの一騎打ちかぁ」
「……それは少し後味が悪いです」
「……見て見ぬふりってのもね」
2人はそう呟いてから小さく頷くと、周りには聞こえないように顔を近付けて小声で話す。内容はもちろん瑛斗と紅葉の仲直り作戦について。
彼が芽生えた恋心を他の人に秘密にしている弊害が、ここに来てついにあらぬ誤解を産んでしまったのである。
こうして麗華とノエルによる、お節介以外の何者でもない優しさの押し売りが決行されてしまったのだった。
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一方その頃、瑛斗はバケツくんもとい
彼女の寝顔に変な感情を抱いてから、こうして考えてしまうことも多い。自分は彼女のどこまでを欲しているのかと。
手を繋ぐことも、ハグをすることも満足で、けれど恋人になればそれ以上のことも求めるのが普通なのではないか。
そして、自分も表には出てきていないものの、心のどこかではそれを望んでいる……かもしれない。
そんなことが頭を過って、ついつい思い
「瑛斗、聞いてるのか?」
「あ、ごめん。ちょっとぼーっとしてた」
「珍しいな。変な物でも食ったか?」
「大丈夫、消費期限切れの牛乳を飲んだくらいだよ」
「……大丈夫じゃねぇな」
その後、強引に保健室へと連れていかれたものの、何事もなく帰ってきたことはまた別のお話。
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