第589話
「久しぶりだね、
そう言って微笑んだ彼女は、どこからどう見ても
それだけで同一人物ではないと言い切れないのが双子の怖いところだけれど、
これも取って付けたもの……と疑うのは無粋だろう。この部屋の重苦しい空気が、それ以上の詮索を禁じていた。
「瑛斗君、感動の再会だよ」
「……そうですね」
「嬉しくないのかい?」
「もちろん嬉しいですよ。嬉しいですけど……」
僕はずっと、もう一度彼女に会えるとしたらすぐに謝罪すると思っていた。
自分が約束を破って会いに行かなかったせいで、事故に巻き込まれてしまったと思っていたから。
でも、彼女は生きている。どうして聞かなかったのかと後悔していた名前だってようやく知ることが出来た。
その事実を嬉しいと思いながらも、同時に向けられる笑顔が少し怖いとも思ってしまったのだ。
「どうしてずっと隠れてたの」
「それは
「僕は麗子さんの理由を知りたいんだ。家族はみんな悲しんでたのに」
「だって、私はもう死んだんだもん。目の前で鉄の塊に吹き飛ばされた人間が起き上がったら怖いでしょ?」
「そんなの、機械だったって言えば――――――」
「それだと私の目的が達成されなくなっちゃう」
僕が「目的?」と聞き返すと、麗子さんはゆっくりと頷きながら「私には火ヶ森さんの助けが必要なの」と呟いた。
一体どういう意味なのかと問い詰めようと前のめりになると、その気持ちを察した彼女が自分から話し始めてくれる。
「火ヶ森さんは私のアンドロイドを勝手に作ったの。そんなこと、誰かにバレたら良くないことになるに決まってる」
「それなら、勝手にそんなことをしたこの人を恨んでるんじゃないの?」
「もちろん家族との日々が突然絶たれたことは今でも許してない。だけど、私に夢を与えてくれた存在でもあるから」
「夢?」
「そう。おもちゃに感情を芽生えさせれば、もっと楽しく遊べると思ったの」
そう言いながら過去に思いを馳せた彼女は、すぐに視線を僕へ戻すと、「でも、今はそんなに子どもじみた理由じゃない」と首を横に振る。
「私は瑛斗くんのことが好きだった。アンドロイドの私も同じ。でも、その気持ちを知って壊れたのは彼女だけじゃなかったんだ」
「どういうこと?」
「恋愛感情を持った機械の自分が壊れたって聞いて、私は自分の抱いてる気持ちも簡単にゼロになるんだって悟ったの」
「麗子さん……」
「だから私は何か大事なものを捨ててでも、完璧なコピーを作りたいって思っちゃったんだ。ずっと瑛斗くんを好きでいられるコピーを」
麗子さんは「そうしたら、私は永遠に幸せでいられるから」と高揚した表情を見せると、こちらへ歩み寄ってきて手を握ってくる。
それが人間だとは思えないほど冷たくて、僕は反射的に腕を引っ込めてしまった。
「瑛斗くんの手は大きくなったね。ちゃんと私にインプットしておかないと」
「麗子さんはそれで満足なの? 死人として隠れて生きなきゃいけないのに」
「どうして? 私は隠れて暮らす必要は無いよ」
「いや、だって戸籍上はもう……」
「戸籍上はね。でも、私は太陽の下に戻れる。だって、そっくりな妹が真似っ子してくれてたんだから」
「……え?」
怪しい表情を浮かべる彼女に、僕と
今の発言はまるで、麗華と入れ替わってしまうと言っているように聞こえたから。
「そんなの、絶対に許さないよ」
「許されなくても私は実行する。そうしないと、いつまでも私はあの日死んだままになるんだから」
苦しそうな声でそう呟く麗子さんに同情してしまいそうになる心へ鞭を打ち、僕がより一層警戒を強めたことは言うまでもない。
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