第579話

 紅葉くれは 5点

 麗華れいか 8点

 イヴ 21点

 天翔かける 21点


 あの後、イヴもせめて同点での決着を目指したのだろう。全身から溢れ出るゲットしたいオーラが店主のおじちゃんの心を動かしたらしい。

 ギリギリのところまでずらしてもらったおかげで、奇跡の一発獲得することが出来た。

 イヴはぴょんぴょんして喜んでいるし、それを見たノエルも満面の笑みで全員が幸せ……とはならない。

 棚の上にあった10点の景品が2つとも落とされてしまったことで、麗華と紅葉は大量得点のチャンスを失ってしまったのだから。


「ですが、東條とうじょうさんの最下位は決まったようなものです」

「ま、まだ分からないじゃない!」

「棚をよく見てください。3点の景品のひとつが落ちかけています」

「あなた、あれを狙うつもり……?」

「ふふふ、頂けるものは頂いておく。それが社会で勝ち抜く最も簡単な方法なんですよ」


 麗華はそう言いながら銃を構えると、あっさりと景品を落としてポイントをゲット。

 2人の点差はこれで6点まで広がった。10点の景品がない以上、理論上紅葉に勝ち目は無い。そう、これは理論上の話だ。


「ふふ、白銀しろかね 麗華れいか、悪いわね。この勝負、一旦あなたの勝ちにしてあげる」


 彼女はそう言いながら意地悪な笑みを浮かべると、銃口を景品棚……ではなく、すぐ後ろにいた僕へと向けた。そして。


「え?」


 反射的にでも何かを言う前に引き金はカチッと音を立て、コルク弾は胸にコツンと当たって地面に落ちる。痛みは全く感じない。

 背丈に合わない武器を構えた不格好な彼女は、キョトンとする僕をさもしてやったりと言いたげな表情で見つめていた。


「は、ハートを撃ち抜いてやったわよ……」

「……どういうこと?」

瑛斗えいとが言ったんじゃない、『落ちそうにないものは10点』って」

「確かに言ったけど」


 時間的につい先程のことだから、記憶にもしっかりと残っている。けれど、それは景品の話であって僕は景品じゃない。

 なら胸に当てられたコルク弾は嫌がらせだったのか。いや、負けず嫌いな紅葉に限ってそんなことをするはずはない。

 きっとなにか意味があってしたことのはずだ。そう考えていた僕は、彼女の次の一言で全てを理解した。


「いつか、絶対に落としてみせるから」

「……なるほど、そういうことか」


 紅葉は少しばかり言葉の意味をねじ曲げ、それを強引にこの勝負と繋ぎ合わせたということ。

 簡単に説明するならば、僕は紅葉の中で『落とせなさそう』の対象であり、彼女を好きになれば『落ちた』ということで10点獲得。

 見事麗華に逆転勝利できるということだ。実に頭のいい戦い方だね、日本語の解釈まで利用するなんて。景品扱いなのはちょっと悲しいけど。


「東條さん、それはずるいですね。瑛斗さんを巻き込むだなんて」

「あら、それは勝つ自信が無いというアピール?」

「もちろん勝ちますよ。ですが、人に向けて射的の弾を打つのは危険です。その点ではマイナスポイントですね」

「人を地下室に監禁した人間の言葉とは思えないわ」

「言ってくれますね……」

「ええ、言ってやるわよ」


 事ある毎に臨戦態勢に入る2人。射的も終わったということで、ここで喧嘩が始まれば店主の迷惑になる。

 何とか収める方法はないだろうか。そう思考を回転させた僕は、最初に思いついた方法を無意識に実行していた。


「紅葉に撃ち抜かれちゃった、これは10点をあげざるを得ないかもしれない」


 その時の僕は、この言葉が火に注ぐ油になるとは思いもしていなかったのだ。


「それはつまり、私に落ちたってことよね?」

「私というものがありながら、東條さんを選ぶんですか? 私……もう何のために生きていけば……」

「いや、今のは方便というかさ」

「は? 真剣な私の気持ちに嘘をついたの?」

「嘘ということはつまり、私の方が好きということですよね!」

「えっと、その……ごめんなさい」


 その後、僕が2人の前で謝罪を繰り返したことでようやく落ち着いてくれかけた頃、参戦したノエルの余計な一言で再燃してしまったことはまた別のお話。


「瑛斗くん、私が最推しだもんね♪」

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