第578話
4周目が終わった時点での結果が以下の通り。
イヴ 11点
あれから麗華は勝つために、この射的のボスとも言えるゲーム機を狙ったところ、ビクともせずにコルク弾が跳ね返されてしまった。
しかし、反射した先が運良く背は高いものの軽い景品で、それが倒れた襲撃で近くにあった1点の景品が3つ落ちたのだ。
おかげで逆転は出来なかったものの、手ぶらで今回を終えることにはならずに済んだ。
紅葉の方はと言うと、彼女も同じ景品を狙って撃ったものの、重い銃を上に向けることの限界が来てしまったのだろう。
引き金を引こうと人差し指に力を入れた瞬間、僅かに銃口が下にブレてしまい、2点の景品を獲得することになった。
天翔を追い抜くことは出来たけれど、やはり彼女にとっては麗華こそ倒したい相手だったらしい。
3点を取っても同点にしかならない事実に、悔しそうな顔で下唇を噛み締めていた。
「大丈夫だよ、紅葉。落とせそうにないものを落とせば、10点獲得で1位になれるよ」
「……ビクともしないもの、無理に決まってるわ」
「無理でも試してみないと。奇跡はやらない人には絶対訪れないんだから」
「何よそれ、臭いセリフ」
「そんな言葉が出るくらい応援してるってことだよ」
「……ふふ、馬鹿みたい」
彼女はそう言って口元を緩ませると、「奇跡、仕方ないから信じてあげる」と最後の弾を込め始める。
その様子を見てもう大丈夫そうだと頷いた後、既に構えに入っている天翔の方へと視線を向けた。
今の彼は最下位、少なくとも何かしらの景品を落とさなければ再会が決定してしまう。
しかし、背後から飛んでくる期待の眼差しが銃の先端に重くのしかかっているのだろう。何度も下に垂れる照準を持ち上げ直していた。
「天翔くん、落ち着いて大丈夫だから。とりあえずビリは回避しようね」
「わ、わかったよ、ノエルさん……」
鬼コーチが引っ込んでもなお、ノエルの期待に添えなかった自分が悔やまれるらしいね。
射的が下手なアイドルってのも、それはそれで味があっていいと僕は思うんだけど。
そんなことを考えているうちに覚悟が決まったようで、天翔は深呼吸をしてから思いっきり引き金を引いた。
勢いよく射出された弾は包装されたイルカのぬいぐるみ目掛けて飛んでいくと――――――――――ペしっというビニールの音を立てて弾かれる。
そして、その弾かれた弾は右斜め方向へと飛び、椅子に座ってコックリコックリとしていた店主の額に直撃。
「っ……なんだなんだ?!」
何か変な夢でも見ていたのだろう。ハッとしたように立ち上がった彼の肩が景品棚にぶつかり、固定していたネジの一本がはずれた。
それによってギリギリで耐えていたらしき景品がいくつか向こう側へと落ちていく。その中には、麗華が狙っていたゲーム機もあるではないか。
「あっ……」
しかし、いくら景品が落ちたからと言って、即ち獲得ということにはならない。
何せ今のは完全に店主のミスなのだから。普通なら、こういう場合は何も獲得出来なかったという結果になるはず。
その場にいた誰もがそう思っていたが、現実は予想よりも甘い時があるらしい。
「おおっ、俺を使うとはよく考えたな! 景品獲得だ、おめでとさん!」
店主はそう言いながら、落ちていた景品全てを天翔の前に置いてくれた。
ポイント換算で17点、合計21点の獲得。普通の手段で戦っても、イヴですら同点に持ち込むのが限界になってしまったわけだ。
やっぱりアイドルとして活躍する人は、僕たちと違って何か持っているらしいね。
ノエルもこの結果にはご満悦らしいし、さすがとしか言いようがないよ。
「私ちの勝負が……終わりましたね……」
「卑怯よ、ズルすぎるわ……」
空っぽの言葉なんかではなく、本物の奇跡を目の当たりにした紅葉が、再び下唇を噛み締めて悔しがり始めたことは言うまでもない。
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