第577話
あれから順調に勝負は進み、3周目が終わった時点での結果は以下の通りだった。
イヴ 8点
3点の景品を2つも落としたイヴが圧倒的だけれど、麗華も低めの点数を確実に取って2位を維持している。
紅葉に関しては完全に身長でのアドバンテージが効いているようで、結局1点のお菓子を3つしか獲得できていなかった。
天翔に関しては、鬼コーチノエルによる指導が逆に重荷となっているようで、1発目を外してから銃口が震えている。
人前に出る仕事をしている割に、プレッシャーにはあまり強くないのだろうか。それとも、大好きなノエルの期待に添えないから……?
「天翔、落ち着いて。まだ逆転はできるよ」
「い、言われなくても分かってる……」
「あと2発を難しい景品にかけてみてもいいかもね」
「ぼ、ボクは挑戦する男さ。そして全てを成し遂げてきた、こんなところでミスを―――――――」
彼がそう言いながら銃を握りしめた瞬間、薬指が引き金を引いてしまった。
飛び出した弾は一直線に一番下の段へと飛ぶと、端にあった飴玉を落とす。
奇跡的な景品獲得ではあるけれど、彼からすればとんでもないミスを犯したわけで。恐る恐る後ろを振り返った後、すぐ後ろで腕組みをしていたノエルを見て固まってしまった。
「天翔くん、勝ってって言ったよね?」
「ご、ごめんなさい!」
「しかも、今は紅葉ちゃんの番だよ。どうして撃っちゃったのかな」
「手が滑って……」
「実は今度、新しく始まるレギュラー番組があるんだけどね。そこに呼ぶ事務所のアイドル、私たちのグループが選んでいいことになってるんだよね」
「の、ノエルさん……?」
「天翔くんたちにしようと思ってたけど、射的でいいところ見せられないアイドルに期待出来ないかもなぁ〜?」
完全に押されている天翔の表情を見て僕は思った。これが世にいう権力と言うやつか、と。
何だか芸能界の闇を知ってしまった気分なので、天翔のことは可哀想だけれど、そっと目を逸らして意識の外へと追いやっておく。
画面の向こう側にいる人たちは、きっと綺麗なまま存在するほうがいいんだから。
「天翔が撃っちゃったし、後半は順番を逆にしてみるのはどうかな?」
「いいと思うわ」
「私も構いません」
「……」コクコク
他の3人の了承も得られたので、順番として次はイヴの番ということになる。
確実にいい景品を落とすことがわかっているからか、彼女が銃を掲げると店主も少し眉をひそめた。
「……」
真っ直ぐに銃口の先を見据え、自分が落とせるものと落とせないものを見分けていく。
そして最も最適だと思われる景品を見つけると、サーチの構えから射撃の構えに移行し、2秒も経てば景品は棚の向こう側へと落ちていた。
これで彼女の持ち点は11点。次も確実に点を取りに来ることを考えて、逆転をするのなら最高得点のものを落とさなくてはならない。
しかし、一番高い棚の真ん中で堂々と立っているゲーム機はおそらくビクともしないし、両端のお米10キロも同等の難易度のはず。
まだ勝ちの可能性が残っている麗華も、安牌をとって2位でいるかどうかと葛藤していることだろう。
「……東條さん、協力しません?」
「いきなり何よ」
「そちらに勝ち目はありませんし、2人で合わせれば4発撃てます。最高得点を私に取らせてもらえれば、景品は差し上げますよ」
「欲しいのは勝ったという結果だけ、そういうことね。お嬢様らしいやり方だわ」
「どうです、いい話でしょう?」
「ええ、すごく。ゲーム機を持って帰ったら、お姉ちゃんが喜んでくれるわ」
「でしたら――――――――――――」
「だとしても、協力するかどうかは別よ。これは勝負であり、ゲームなんだから」
紅葉の「まさか、私に逆転されるのが怖いのかしら?」という挑発にハッとした麗華は、ニヤリと笑ってゆっくりと首を横に振る。
「ここから逆転はいくらなんでもアニメの見すぎです。1点取られたからと言って、私は試合を捨てて帰ったりしませんよ?」
「その言葉、覚えておきなさい。勝った暁には脳天にファイ〇ートルネード打ち込んであげるから」
「望むところです、最下位さん」
相変わらずバチバチしている2人の背後で、イヴが天翔の獲得景品である飴玉を貰い、嬉しそうに口の中で転がしていたことはまた別のお話。
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